. ページ3
【樹】
『樹くん、今日…Aのところ、一緒に行けないかな？』
青「ん？いいよ、もちろん。ちょっとしんどい？」
ちぃは、なかなか出にくい母乳を、がんばって搾っては娘のところへせっせと届けて、そして何より、自分の病気とも、しっかり向き合っていた。
今でこそ、そこそこメジャーになってきたのかも知んないけど、まだ、男性が育休や時短をするなんて、かなり珍しくて。
それでも、ちぃの病気や北斗のことを思って、俺が保育園のお迎えに行ったり、融通を利かせられるようにしてくれた喜多川社長には、感謝しかなかった。
『樹くん、A…触ってみる？』
青「えっ、あ……うん」
ふにゃっとした笑顔で、楽しそうにちぃが言ってくるもんだから、思わずイエスを出したけど、本当は怖かった。
あまりにも小さくて、壊れそうで。
でもいざ触ってみれば、ものすごくあったかくて…。
『ふふっ。A、パパも、泣き虫だったねぇ』
青「はぁっ！？」
『しーっ！声、大きいよ。みんなビックリしちゃう』
青「いや、だって、お前が…」
クスクス笑って俺を揶揄うちぃは、昔と何も変わんない、いたずらっ子の笑顔。
北斗が生まれてからは、強い母ちゃんの顔を見せることが多かったけど、あの頃と変わらない笑顔に、色んなものを背負わせ過ぎてしまったような気がして、少しだけ反省。
『Aね…まだ上手に生きられなくて。呼吸も…心臓も…時々止まる。……何回も、私の前で、心臓が止まったこともあって…』
青「えっ、俺…それ……」
『言わなかったんじゃない。樹くんに言ったら、私がそれを認めちゃう。…止まった事実を、感じるのが、怖かったの。…言えなかったの』
青「……ん、考えたんだな、お前なりに。ごめんな…でも、ありがとな」
子どもの前では、泣かない。
北斗が生まれた時にそう宣言して以来、ちぃはずっと泣かなかった。
今も、グッと上を向いて涙を堪えてた。
青「誰もいねぇからさ…」
『っ…』
そっと胸に抱き寄せて閉じ込めれば、苦しいよ、なんて言いながらも拒否はされなくて。
今だけは、俺の嫁でも、子どもたちの母親でもない、ちぃのまま。
この日彼女が濡らした俺の胸を、元気なAの涙でたくさん濡らすのは、あとほんの少しだけ先の話。
-Fin-
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 686人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かん。(プロフ) - 名無し13944号さん» リクエストいただき、ありがとうございました！遅くなってしまいましたが、続編にて書かせていただきました(^^)2022年も、田中ファミリーをよろしくお願いいたします！ (2021年12月31日 19時) (
レス) id: bd45e6ad2b (このIDを非表示/違反報告)
かん。(プロフ) - まめさん» リクエストいただきありがとうございました。続編にてお話UPさせていただいてます(^^)お時間いただき、ありがとうございました！また、お楽しみいただければ嬉しいです！ (2021年12月17日 22時) (レス) id: bd45e6ad2b (このIDを非表示/違反報告)
かん。(プロフ) - _sa.kikaさん» お待たせしてすみません、リクエスト、続編にて書かせていただきました！お楽しみいただければ幸いです♪これからもよろしくお願いします！ (2021年12月13日 7時) (レス) id: bd45e6ad2b (このIDを非表示/違反報告)
かん。(プロフ) - 岩田柊架さん» リクエストいただきありがとうございました！続編にてお話書かせていただいてます。EXILE医療センターの初期の頃から岩田さんの作品を読ませていただいていたので、リクエスト頂き感動しております( ；∀；)これからも作品共々よろしくお願いします！ (2021年12月7日 10時) (レス) id: bd45e6ad2b (このIDを非表示/違反報告)
かん。(プロフ) - 名前しずくさん» リクエストいただき、ありがとうございました。続編にてお話更新させていただきました！お楽しみいただけましたら嬉しいです☺︎今後ともぜひ、よろしくお願いします！ (2021年12月3日 1時) (レス) id: bd45e6ad2b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かん。
| 作成日時：2021年9月16日 0時
