無限の未来 5th season (ページ29)

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229話ページ29

【慎太郎】

緑「A！お待たせ！」

小さい頃からいろんな仕事をさせてもらっていた俺たち。

チビの時から、仕事場へは電車を乗り継ぐのが当たり前だった俺たちは、この歳になるまでなんの違和感を覚えることもなく、当然のように仕事が同じなら一緒に行き帰りをしていたA。

それがもう、Aが病気になって3年近くも当たり前じゃなくなっていたから、なんだか少しだけむず痒い。

「…謙ちゃんのアシスタント役なんやって、今日。なんかさ、もうプレッシャーでしかないんやけど」

緑「あははっ！確かに、それは想像つかない。けど、できるって思ってもらったから、安井くんだって大人の人に声かけてくれたんじゃん」

「そだねぇ。ねぇ、慎…？なんか、A…今少しずつお仕事戻れてるやん？今…私、めっちゃ楽しい。できんことばっかで…しんどいけど、それでも、楽しい」

仕事が楽しいと思ったのは、いつが最後だったっけ。

そんな風に思ってしまう自分にドキリとする。

別に、仕事がつまらないわけではない。

でも、だからといって、“楽しい”とも思えない日々が続いていた。

目の前のAは、そんなことゴチャゴチャ考えるでもなく、上手くいかないことの方が多いはずなのに、それでもあの頃と変わらず…いや、あの頃以上に純粋に仕事を楽しんでいるAが、うらやましかった。

「なんか、今のみんな見てると…色んなことに押しつぶされてる気がするんよなぁ」

緑「えっ…」

「上手く言えんけど、色々、苦しそう。きっと、私もずっとあそこにおったたら、そうだったんやろうけど…」

緑「…っ」

「今のみんな見てるとさ、失敗できなくて。周りから遅れたら終わりで…。いろんなこと我慢しとって、窮屈そう…に、見える。ごめん、わかったようなこと言うて…」

緑「んーん。確かに…Aの言う通りかも。どうでもいいことばっかり、考えちゃうから…」

絶対に、誰より人の気持ちを考えるAだから、本当に考えて考え抜いて、素直な気持ちを話してくれたのには違いない。

だから、この言葉は、何よりもありがたくて…重たい言葉だった。

Aが、そんな俺たちを見てストレートに気持ちを伝えてくれたことが、ただ心の底から嬉しかった。

一緒に、そんな現実に向き合えている気がして。