226話 ページ26
【勇人】
「引退、しました」
泣き虫で、悲しくても、悔しくても、嬉しくてもすぐ泣いてしまっていた妹が、胸を張って帰ってきた。
昨日はワンワン泣きでもしたのか、目は腫れて赤らんでいたけど、それでもAは晴れやかな顔をしていて、思っていなかった結末でも、キチンと最後までやり切ったんだってことは、十分に伝わってきた。
勇人「ん、お疲れ様」
「…何も言わずに、応援してくれて、ありがとう」
勇人「はははっ!いいえ、こちらこそ。夢、見させてくれて…ありがとうな」
この2年半、不安しかなかった。
“小児がん”という大きな病気を抱えたAが、仮にもまだ闘病中の身で俺たちの元を離れて一人寮に入り、離れて暮らすこと。
自分が経験をしてきたからこそ分ってしまう、強豪校の寮生活、日々の練習というそのリアルな日常。
夏の暑さに、冬練の厳しさに、それになにより、一人で何もかもできるようにならなくてはいけない親元を離れた生活で、病気を抱えたAが耐えられるのか。
ただでさえハードな部活に、学校にというめまぐるしい生活で体調を崩していないか、たった一人のマネージャーとして、部に馴染めているのか。
毎日、Aの顔が浮かばない日なんてなかった。
さすがに再発がわかった時は、足を切断するしかないほどに病魔に蝕まれていると分った時は、正直このまま部活を辞めてほしいとさえ思った。
でも、止められなかった。
いや、止める権利なんてなかった。
それくらい、Aは高校野球にのめり込んでいて、必死で、まっすぐだった。
そんなAに、いつしか俺たち家族も夢を見ていた。
勇人「自慢の妹やな…Aは」
「ん?なんか言った?」
勇人「いや、なんも」
来月からは、ジャニーズJr.に復帰する。
初めからそのつもりだったといえ、Aから改めてそう言われた時は正直驚いたけど、それよりも、嬉しい気持ちが大きかった。
「すぐに元には戻れん。覚悟はできとる。技術やって落ちとるし、何よりこの足やし。でも、絶対にみんなの隣に…絶対戻る」
勇人「応援してる」
「うん、ありがとう」
Aの“高校野球”というステージは、これで終わりを告げた。
でも、すぐに新しいステージを目指していた。
彼女の背中は、頼もしく、輝いて見えた。
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美紀 - 移行おめでとです最高ですコロナウイルスと熱中症に気をつけてくださいね (2020年9月7日 14時) (レス) id: 8204dae0fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かん。 | 作成日時:2020年8月16日 11時