無限の未来 4th season (ページ23)

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173話ページ23

【勇人】

一年前、最終日には絶対に合宿を見届けに来てくれと言った妹。

あれから一年、本当にいろんなことがあった。

今年は、特になにを言われたわけではないけど、なんとなくそんな妹の言葉を思い出して、なにより自分が、この一年を過ごしたAの今を見届けたくて、朝イチからグラウンドへ来た。

他の部員の親御さんや、馴染みのOBには驚かれたけど…今日は、この場でお世話になるひとりの、兄として。

「5ー4ー3ー2ー1ー…スタート～。ペース落ちてる！まだいける！まだ！まーだ！」

歯を食いしばる部員たちに、本当は言いたくないくせに、同じくらい苦しそうな顔をして強い言葉を投げつける妹。

あんなにぎこちなく歩いていたのに、義足をつけても部員たちの歩幅に、周りが進むそのペースに、自分の力でついて行けるようになった妹。

大好きな仲間に囲まれて、大好きな野球に触れて、誰よりも楽しそうに笑う妹。

見たことのない姿で、ここでしか見られない姿で…どこまでも、彼女が必死に自分の命に食らいついて、真っ直ぐに向き合った結果が、そこにはあった。

福也「坂本さん…ですよね」

勇人「あ…えっと、山崎くん…やな？」

声をかけてきた青年は、来年から俺と同じプロの世界に入ってくる、この高校のOB、山崎福也くんだった。

彼が高校入学時に脳腫瘍を患っていたということは、前々からAに聞いていた話だ。

Aが、何度この子から勇気をもらったことか。

わざわざ、Aの病気のことを知り、彼女を訪ねてきてくれたこともあったらしく、Aも慕っているOBの1人だった。

福也「聞きました…妹さんのこと。その…再発の後、転移してたって。心配だったんですけど…。でも、今日の笑顔見て、安心しました」

勇人「ふふっ。ありがとうな。今日、数日ぶりにアイツんこと見たけど…俺も、安心したわ」

妹は、俺が思っている何倍も強くて、何十倍も周りに恵まれていて、何百倍も…カッコ良かった。

年の離れた妹だから、Aが幼い頃からいつだって、守ってやらなきゃって、助けてやらなきゃって思ってばかりいたけど、俺以外にも、Aを支えてくれる人がこんなにもいた。

福也「神様って、いるんです」

山崎くんの言葉は、必死に堪えていた俺の涙を溢れさせるには十分すぎた。