129話 ページ29
“半歩後ろ”だなんて、正直言ってなんの根拠もないわけだし、これまでの佐野の打席を見てきた中での、ただの感覚でしかなかった。
でも、ただの感覚だったとしたって、佐野が打席に立つ位置が、いつもより前に出ているように見えた。
半歩分の差なんて、球速を考えるのであれば、たかがコンマ数秒の違いでしかないかもしれない。
それでも、やっぱり感覚は変わってくる。
コンマ数秒の違いでも、そのわずかなタイミングで、捉えられるかどうかは変わってくるわけだから、普段と同じ感覚でズレた場所から打っていれば、そりゃぁ本人のイメージする感覚と、実際の打撃結果が変わってくるのも当然。
そう信じて、せめてなにかしらの突破口になってくれたらと願って、佐野にかけた言葉。
「あっ…！」
…捉えた打球は、高々と空を待って、グングン伸びて…ホームラン。
…なんて、さすがにそこまでうまいシナリオとは行かなかったけれど、半歩後ろ、の言葉から佐野自身が微調整を繰り返し、徐々に合わせてきたタイミングが合致した。
今日チームで初めての長打を打ったのは、佐野だった。
しかも、ようやく均衡を破ったタイムリーヒット。
セカンドベースからこちらを向いて、普段はあまり感情を見せないタイプのなのに、思いっきりガッツポーズを向けてくる佐野は、これまで見た中で一番カッコよく見えた。
亜嵐「しゃぁっ！！！」
「ナイバッチ、佐野ーーーーーーーー！」
ようやくもぎ取った1点。
重く、大切な先制点。
たかが1点、されど1点なのだ。
佐野「サンキュ。お前、さすがだわ。やっぱ…お前いてくれて、よかった」
ベンチに戻ってきた佐野がかけてくれた言葉が、興奮した様子で、グッと私の手を握って、ストレートにかけてくれたその言葉が、なによりも嬉しかった。
まだ油断はできない。
油断はできないけど、少しだけ安心した。
亜嵐「円陣組もう。…Aも、こっちこい！」
「はいっ！」
亜嵐「もぎ取ったからには、ぜってぇこの一点、守ろう」
1点を先制したことでようやく緊張が解けたのか、心なしかみんなの表情が和らいで見えた。
大丈夫、あの日地区大会で見た、どこまでも強かった彼らの表情と同じ。
自信に満ちたみんなの顔。
試合は折り返しだ、あと半分。
絶対に、勝ちたい。
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かん。(プロフ) - 美紀さん» ありがとうございます！！！ (2020年5月30日 11時) (
レス) id: bd45e6ad2b (このIDを非表示/違反報告)
美紀 - 移行おめでと更新大変だと思います頑張ってください応援していますコロナウイルス流行ってるので気をつけてくださいね (2020年5月27日 12時) (レス) id: 8204dae0fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かん。
| 作成日時：2020年5月20日 22時
