119話 ページ19
三男「Aっ!どしたん、大丈夫か?」
「ごめん、ちい兄…こんな、遅くに……」
恐れていたことのひとつ、幻肢痛が急に出始めた。
もう私の左足がそこにないってことは、苦しいくらいに分かっているはずなのに、心が理解してくれない。
あるはずもない痛みが、叫びたいぐらいに辛かった。
どうしても痛くて、苦しくて、辛くて…一人でいることがどうしても怖くて、耐えきれずに看護師さんを呼べば、その様子がよっぽどだったのか、先生がすぐにちい兄を呼んでくれて。
夜遅い時間だったにも関わらず、慌てて病院に駆けつけてくれたちい兄。
三男「ええんよ、そんなんは。今は?痛くない?」
「まだ、痛いけど……っ、ハァッ…」
三男「そっか…。薬…は、飲んだんやな。息、しっかりしとってな?苦しくなってまうから」
本来そこには存在しないものが痛んでいる以上、薬は気休めにしかならないんだってわかってても、飲めば少しは楽になる気がする。
あまりに痛がっていたからか、心配した先生が、ちい兄に電話をしてくれたのは、薬で補えないそんな心が認識してしまう痛みの緩和を、心に効くお薬として…。
少しずつ義足で歩くことにも慣れてきていたところだったから、ものすごく悔しかった。
それと同時に、これからこんな苦しい痛みがまた襲ってくるのかと思うと、本当にこれから先、この体で頑張っていけるのか、自信なんてなくなった。
三男「まぁ、落ち込んでるやろけど…。でもな、先生血液検査の方は順調やって言うてたで?リハビリんことも、褒めてた」
「…んっ」
ちい兄の慰めてくれる優しい言葉さえも、今の私にとっては、少し苦痛だった。
それをわかってるからか、こちらに背を向けているちい兄は、黙って、ただひたすらに私の背中をさすってくれていた。
明日のリハビリ、休む?って聞かれたけど、しんどかったら、休んでもええんやで?って、ちい兄はそう言ってくれたけど…どうしても、それは嫌だった。
だから全力で首を振れば、ちい兄は笑って、“そう言うと思ってた”なんて言う。
三男「なぁ、A?」
「…?」
三男「先生、車椅子ならいいよって言ってたし…明日、俺とキャッチボールしよか」
急な提案に、少し驚いたけど、嬉しかった。
少しだけ、痛みが和らいだ気がした。
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かん。(プロフ) - 美紀さん» ありがとうございます!!! (2020年5月30日 11時) (レス) id: bd45e6ad2b (このIDを非表示/違反報告)
美紀 - 移行おめでと更新大変だと思います頑張ってください応援していますコロナウイルス流行ってるので気をつけてくださいね (2020年5月27日 12時) (レス) id: 8204dae0fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かん。 | 作成日時:2020年5月20日 22時