足りないくらいに ページ21
【慎太郎】
マリ「Aちゃん！」
「…マリ」
俺らのずっと先を進んでいた後輩が決断した、一歩。
それを、送り出す日。
一時はどうなっちゃうかと思ったけど、ここ数日でなんとか持ち直したAは、決して危なっかしく無理に前を向いているわけでもなければ、立ち止まって嘆いているわけでもない。
周りにいる俺たちを頼りながら、不安も、寂しさも、悔しさも…素直な自分の気持ちと真正面から向き合っていた。
ほら、今も。
緑「ふはっ！行ってきな？終わったら帰っておいで」
「…ん、ありがと」
緑「ごゆっくり〜」
不安そうに俺を振り返って、どうしよう？みたいな顔向けてくるAに、行ってらっしゃいと背中を押す。
二人で出て行った楽屋に一人で帰れば、ちょっと心配した様子の5人だったけど、マリウスと話してるって伝えたらみんな安心したように笑うんだ。
青「慎太郎、さんきゅ」
緑「俺なんもしてないけどね。みんな一緒」
青「ま、それもそっか」
ケタケタと笑う樹が、なにかを決意したみたいにグッとソファにしっかりと座り直す。
そんな樹の姿に、楽屋の空気が少し変わるのを感じた。
それを感じた俺たちは、自然と一人、また一人とソファに掛け出しては、なんとも言えない独特な空気に包まれた楽屋。
初めての空気に、みんなどこかそわそわとしていた。
青「あー…ちょっと…待って」
赤「ヘヘッ。ん…どんだけでも」
フーっと大きく息を吐いてはまたソワソワして、普段の樹ではなかなか見られないその姿。
何度目かに長く息を吐いた樹が、一言。
“俺、Aと籍入れようと思う”
その声はすごく力強くて、まっすぐで、めちゃくちゃカッコよかった。
青「少しは、認めてもらえる俺たちになれたと思うし…。それに、今なら…」
“俺はAを守る自信がある”
そう言ってはにかんだ樹は、やっぱりカッコよかった。
赤「Aには？」
青「まだこれから。…すぐに、ではないけど。時期見て、プロポーズしようと思う」
赤「そっか」
青「あっ、もちろん…」
桃「樹！…俺ら、みんな分かってるから」
公私混同するような奴らじゃない。
だからそんなこと、言わなくたって。
いつもとは少し違う暖かく和んだ楽屋の空気が、このまま年が明けても続きますように…。
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作者名：かん。
| 作成日時：2024年3月17日 23時
