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【目黒】
目黒「A、こっち」
「あ、うん！」
思いの外早めに呼ばれた席に、注射をして戻ってきたA。
注文用のタッチパネルを前に、画面を右へ左へスライドさせながら、なににしようかと悩む姿を、こっそり写真に収めたりなんかして。
「決めた〜、これにする」
目黒「ん、おっけ。俺、チーズインハンバーグ」
「ふふっ。ほんと好きですね」
“あ、また敬語使った〜”なんて、2人でケタケタ笑って、隣のテーブルに届く料理見て、あれも美味しそうだね、次来たらあれも食べたいね、なんて。
しばらくはそうして料理を待っていたんだけど、待っても待っても、全然料理が届かない。
お昼時のピークで店内も混んでいたし、バタバタとしていたから仕方のないことかなって思ってたけど、気づけば俺らよりも後に入ってきたお客さんも食事をしていた。
だから、おかしいと思って。
目黒「すみません」
店員さんに、まだ料理が届かないことを説明すれば、タブレットからうまく注文が飛んでいなかったらしい。
目黒「もうちょっと時間かかりそうだね。俺、だいぶ腹ペコだわ…って…A？」
「え、あっ…ん、そだね」
目黒「どうした？具合、悪い？」
「っ、ぃや…だい、じょ…ぶ」
目黒「…大丈夫じゃないっしょ。…ちゃんと、教えて？」
声かけてても、反応が薄いA。
おかしいと思って声をかけている最中にも、みるみる様子がおかしくなっていく。
こんな急激に具合悪くなるなんて初めてで、俺も少し焦ってきた時だった。
目黒「Aっ！」
ガタン！と音を立てて、座っていた椅子ごと…。
一瞬何が起きたのか分からなかったけど、いつだったか、まだ俺もAも高校生だった頃に保健室で見た光景を思い出して。
目黒「救急車…っ、誰か、救急車っ！呼んでください！あのっ、糖尿病…待ってて、そのっ…あの…たぶん、低血糖で…っ」
周りには、樹さんも、北斗くんも、優吾さんも…京本くんや、慎太郎くんも…いつもの頼れる大人たちは、いない。
Aを助けるには、俺が動くしかなくて…。
ただ、必死に周りに助けを求めた。
あまりに必死すぎて、病院に着くまでの記憶はほとんどないけど、Aの冷たい手が震え続ける感触だけが、いつまでも自分の手に残っているような気がした。
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作者名：かん。
| 作成日時：2023年11月30日 20時
