Just call my name, when you need me【短編集】11 (ページ6)

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そりゃ、怖いよ。ページ6

【北斗】

“…病院(ここ)じゃなくて、家で過ごす。薬が増えない。…恋愛は、したい。行きたいところに、なーんも気にせず、行きたい”

数ヶ月前、Aはそう言った。

“普通に生きたい”と瞳を揺らして、それでも涙をこぼさずに、真っ直ぐ強い目を俺に向けて…それでいて、穏やかにそんな言葉を続けた。

それから、辛い治療を乗り越えて、そんな日々を求められるようになった妹。

黒「…いつまで占領してんのさ」

「だってぇ…」

黒「貸して。やってあげるから」

「ふふっ。お願いしまーす」

黒「絶対こうなること見越してたよね？あ…ちょっと、お姉さん。こんな薄い服で行ったら風邪ひくって…」

「パパとかふっかみたいなこと言わないでー」

本気で嫌そうな顔されるところ見ると、俺で3人目なんだろう。

…阿部ちゃんはそんな面倒なこと言わないだろうけど、とりあえず優吾には釘刺しておこうか。

黒「はい、完成。気に入らないところない？」

「ふふっ。ん、にぃに完璧！いつもありがと」

黒「あ、ちょっと待って。…ん、これで完璧」

シュッと一振り、Aがいつも出かけるときにしてる香水を振ってやれば、ニコッとこちらに笑顔を向けてくれるA。

さっきまで熱を通していたその髪はウィッグだけど…もう少しもすれば、きっともっとAの思い通りの未来が待っているのかなって。

「にぃに！」

黒「ん？」

「…めぐ先輩、どっちが好きかな？」

黒「んー…こっち？」

「おっけ！あ、そうだ。パパにさ、夜ごはん食べて帰るねって言っておいてね！ちゃんと遅くなる前には帰る。あとは…えっと…」

黒「ハハッ。ん、了解。あとは、思い出したときにでも連絡くれたらいいから。ほら、早くしないと目黒お迎えに来ちゃうよ？」

口数が多いのは、きっと緊張してるから。

そりゃ、“彼氏と彼女”になってから、ようやく外に出られる初めてのデートだもんな。

入院中はほんの少しリップやファンデーションを塗るだけだったメイクも、今日はバッチリ…少々父さん好みなところが心配ではあるけど、決まってる。

何日も前から、風磨にメイクの手ほどきなんか受けちゃってさ。

そんなウキウキしたAへの表情と、上手なメイクで…気づかなきゃいけないことを、見落としていたのかもしれない。