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【樹】
真っ赤な顔して高熱に魘されていた北斗を慌てて病院へ連れてこれば、高熱以外は特になくただの風邪だろうって。
ホッと胸を撫で下ろすのと同時に、俺はなんとなく気づいていた。
ただの風邪だけじゃない。
頑張らせすぎたんだと思う、北斗を。
黄「ごめん、遅くなった」
青「いや、こっちこそ…ごめん、急に」
黄「んなの承知で“いつでも”って言ってるに決まってんだろ。ちぃ覗いてきたけど…ま、アイツは大丈夫だわ」
青「…さんきゅ」
黄「だから、お前もちょっとは寝てくれる?」
苦笑いする兄貴が、“あとちょっとは飯に気遣え”って言いながら突き出したタッパー。
ところどころ不恰好で、ちぃの作る弁当みたいに彩りなんてこれっぽっちも気遣ってない中身だけど…兄貴が作ってくれたそれには、俺の好きなもんばっかり詰まっていた。
黄「何泣いてんだよ」
青「は…っ、泣いてねぇ、しっ…」
黄「…ちゃんと栄養とって、ちゃんと寝る。そしたらお前は、十分カッケェ父ちゃんにも…頼れる旦那にもなれる。あと一歩足りてねえのは、自分への矢印だから」
青「…ん」
黄「樹?…自分一人大事にできねえ奴が、他人守れると思うなよ」
青「…うん」
家族がもう一人増えることに、無意識に気張りすぎていた心。
勝手に背負い込んで、余裕なくして、結局まだ幼い北斗の頑張りに甘えていたんだと思う。
その情けなさを、変に庇うことなくきちんと突きつけてくれる兄貴の誠実さが、また俺を男にしてくれた気がした。
青「これ…食っていい?」
黄「ハハッ、んなの好きにしろよ!」
きっと慌てて作ってきてくれてんだろう。
きれいな色した卵焼きは、随分としょっぱかった。
最近俺があまり食えてなかったことも分かってるはずだけど、それでも俺が大好きなエビフライを3つも入れてくれた、胃もたれしそうな茶色い弁当。
栄養バランスなんてめちゃくちゃなんだろうけど…今の俺の心には、十分すぎるほどに栄養満点の弁当。
青「…っ、うめぇ…っ」
黄「ん、よかったわ」
青「すっげぇ…すっげぇ、うめぇ…っ、っ」
黄「…樹?」
青「…なにっ」
黄「…お前も、たまにはパパじゃなくたっていいんだからな?」
兄貴の笑顔に、肩の力がスッと抜けて…なんだか、また明日からも頑張れる気がした。
-Fin-
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作者名:かん。 | 作成日時:2023年11月30日 20時