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【樹】
『ごめん…樹くん…』
青「バーカ、謝んな。…苦しい？」
『ん…ちょっと…』
青「ん、無理しなくていいよ。楽な体勢しとけ」
ここ数日、嫁の体調が優れない。
なんとか入院こそ免れてるけど、ギリギリの状態だった。
まさかこんな未来が待ってるとは思わなかったったいうのもあるんだけど、こういう未来があるのなら、色んなことちゃんと考えてすりゃよかった…なんて、今さら言ったところで仕方がない。
北斗の時もそれなりに酷かったんだけど、今回はちぃにとってあまり得意ではない梅雨の時期とつわりの時期とが丸かぶり。
辛くないわけがなかった。
黄「よっ」
青「あれ、兄貴…なんで…」
黄「母さんに覗いてやったって頼まれた。…来てよかったわ」
青「…さんきゅ」
黄「先に言っとく。…お前も無理すんな」
青「…ん、ありがと」
正直俺も、ちょっとだけ参ってた。
梅雨の時期は、昔から俺も得意じゃない。
どうしても梅雨入りから台風のピークが過ぎ去るまでの時期に体調のアップダウンが激しいのだけは、大人になってある程度身体が丈夫になっても嫌に残っていた。
それに抗うかのように、無視するかのようにすぐ無理をする俺のことを、こうやって兄貴は昔からよく止めてくれていた。
良くも悪くも、ストッパーをしてくれていた兄貴。
黄「北斗は？」
青「あぁ、まだ保育園…」
黄「俺、迎え行ってこよっか？…あぁ〜、嫌がる？」
青「いや…大丈夫だと思う、し、すっげぇ助かる」
『ごめ、ね…ゆーごく…』
黄「ばーか、お前はなんも気にすんな。こんなことで弟とかわいい義妹の役に立てるなら、安いもんよ」
そう言って、くるくると鍵を回しながら家を出ていった兄貴。
結局この人には、いつまでも頭が回らない。
『ｹﾎｯ…ｹﾎｯ、ｹﾞﾎｹﾞﾎｹﾞﾎｯ、ﾊｯ…ﾋｭ』
青「…薬、は…ダメなんだもんな」
『…ん、がんば、る』
青「…頑張り過ぎんなって」
妊娠中は、思うように薬のひとつも口にできない。
ちぃの方にもリスクが高いってことくらい、俺たちが…ちぃ本人が誰よりも一番よく分かっていたし、北斗の時も経験をしていること。
それでも望みたいことがあるんだと、初めての妊娠の時もちぃは強く笑っていたっけ。
とはいえ…見ている側も苦しい時間だった。
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作者名：かん。
| 作成日時：2023年11月30日 20時
