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【優吾】
“田中北斗くんのお家の方でお間違いないしょうか?”
そんな決まり文句と共に入っていた知らない番号からの留守電は、北斗の通う高校からのもの。
数回耳にしたことのあるその声は、北斗が頼っているらしい保健室の先生の優しい声で、少し心配の混じったその声に、樹がどうしてんのかなんて考える間もなく会社を早退して高校へと足を向けた。
“ご本人、大丈夫言うてるんですけど…教員判断で、早退させたいと思いまして…”
北斗の大丈夫なんて…A以上に信用ならないことくらい、俺たちが一番によくわかっているはずだった。
兄ちゃんとして強がりたい気持ちだって、俺の方がよくわかっているはずだった。
なのに…。
“…北斗?大丈夫?”
“いや、っ…大丈夫。大丈夫”
“俺、今日早いから大丈夫。A、ゆっくりついててあげて”
頭に浮かぶのは、数日前の北斗との会話。
全部、鵜呑みにした。
黄「すみませーん…。田中北斗の…」
神山「あぁーっと…えっと、お父様ではなくて」
黄「あ、伯父です。電話いただいてた…」
神山「すみません、こちらの勝手な判断で…」
黄「あー、いえ。全然。…助かりました」
神山「いつもなら、調子悪かったら早めに保健室も来てくれるんですけどね。今日は、だいぶ無理してたみたいで。たまたま廊下で見かけた時、フラッと…ね」
黄「えっ…」
神山「あぁっ!大丈夫です、今は。ただ…」
“北斗くん、相当無理してるので…お家でもよく見てあげててください”
そう言って見せてもらったのは、保健室に着いたからであろう北斗の様子。
数時間強がってここで耐えていたことも、どんなに辛い中でその判断をしていたのかも…どんどん高くなる数字や、ひとつ、またひとつと増える症状を見れば、一目瞭然。
黄「ごめんな…」
そっと撫でた頭はかなり熱くて、頼りなく、それでも激しく何度も上下する北斗の胸に、こころが締め付けられた。
黒「…っ、ハァ」
黄「ん、病院行こう。もう、大丈夫だから」
もちろんそのまま病院直行で、きっと北斗もインフルなんだろうな…って思いながら、明日から数日会社を休ませてもらう連絡を。
黄「ありがと、北斗。ごめんな…」
普段と違った静かな車内には、北斗のゼェゼェと荒れた呼吸だけが響いてた。
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作者名:かん。 | 作成日時:2023年11月30日 20時