Just call my name, when you need me【短編集】11 (ページ30)

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【北斗】

結局あれから、なかなか100%の回復にはならないままの日が続いていた。

それでも、なんとか踏ん張って長期の欠席とかは免れてる状態。

神山「おっ」

黒「…ちょっと、休んでいいですか」

神山「…ふふっ。ん、どーぞ？一番奥使ってな」

綺麗にメイキングされたベッドに背中を預ければ、我慢していた重だるさが襲いかかってくる。

去年まではあまり好きになれなかったこの場所も、今はなんとなく心の拠り所になりつつある。

神山先生のおかげで。

神山「…ちょっと無理したんちゃう？」

黒「…そう、見えますか？」

神山「ふふっ。ま〜…北斗くんやと、思えばな。でも…他の子らと同じ1人の男子高校生と思えば…ちょっとだけ、はしゃぎすぎちゃう？って思うくらい」

黒「ふふっ。…そっか」

神山「実際、はしゃぎすぎてる自覚あるやろ？」

どうしてこの人の言葉は、こうもすんなりと心に入ってくるんだろうか。

きっと、他の誰かに言われればそんなことないと反抗したかもしれないけど、確かに神山先生の言うとおり、そんな自覚がないわけじゃない。

というか…。

黒「最高に、幸せなんです」

神山「んー？」

黒「なーんにも考えないで、ただ欲望のままにはしゃげてることが。空手に、一直線で集中できてることも」

おかげで成績は若干落ちましたけどって言えば、そんなのいくらだって取り返せると笑う神山先生。

いかにも教師のはずなのに、サッパリとそんなことを言い放つ神山先生のフラットさには心を救われていた。

自分自身がこんな自分を否定してしまいそうだったけど…なんか、こんな不器用な自分でも、多少転けながらでも自分なりに前に進めている自分でもいいような気がした。

神山「まぁ、少なくとも学校ではこうやって頼ってくれたらいいし」

黒「…はい」

神山「他にもいっぱいあると思うで？もうちょい、目線高く、視野広げてみ？そしたらもうちょっとずつ、北斗くんは生きやすくなると思うで」

黒「生きやすく…」

神山「うん。北斗くんが思ってる以上に、世の中には味方って案外溢れてるもんやで」

ガシガシと俺の頭を撫で回して笑う神山先生。

大きなチャイムにかき消されぬバタバタとした足音と、俺を呼びながらはしゃぐ声に、固く冷えた心がほっと温かく緩んだ気がした。

-Fin-