Just call my name, when you need me【短編集】11 (ページ29)

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【北斗】

“俺、来年は受験に専念する。…なりたいから、建築士”

そう言った時の、父さんの嬉しそうな顔が忘れられなかった。

けどそれと同時に、そのために高3の間は空手もキリのいいところで一区切りつけて受験に全集中するんだと伝えた時の、寂しい目も。

だから…少し偉そうだけど、それでも残されたあと数ヶ月を目一杯に楽しんで、全てやり切って受験に向かう姿を見せることが、親孝行な気がしていた。

これまでなかなか全力でゴールする姿を見せられていないような気がしたから。

渡辺「田中さ〜…おぉ、樹じゃないんだ」

黄「今日休みだったからね、俺」

渡辺「んで、北斗は〜？」

黒「…別に、ｹﾎｯ…なんも」

渡辺「うん、咳が出て？あとは？」

黒「だか、らっ…ケホケホッ、ｹﾎｯ…」

往生際の悪い俺に動じることなく、はいはいって俺のことあしらいながら、優吾と目を合わせてはケタケタ笑ってるしょっぴー。

…やっぱり、この人だけは騙したりできないなって観念するのはいつものことだった。

それから程なくして、宮舘先生に呼ばれた診察室。

ツンと鼻を突く消毒薬の匂いが、いつも以上に不快に感じた。

こんな匂いに、慣れ親しんでなどいる場合じゃないし、まして縛られていたくなんかない。

宮舘「久々だね、定期検診以外で来るの」

渡辺「ここんとこ、結構調子よさそうだったしな〜。ん、そっち座って？」

黄「一昨日くらいから夜咳酷くて…まぁ、でも熱とかもないし…ダルそうにしてんのが気になるくらいかな、俺は」

宮舘「ん、ありがと。心臓の方は？とくに自覚症状…」

黒「ない。…なんも、ない」

だから早く家に帰りたいんだという気持ちは伝わっているのか、いないのか。

結局、苦笑いしながら俺の診察を続けた宮舘先生から伝えられたのは、ちょっと風邪ひいちゃったかな、だって。

そのくらい、俺だって…。

渡辺「ま、疲れが出たんだろ。あんま心配すんな」

黒「…ん」

渡辺「んな不満そうな顔すんなよ。どうせ遊ぶペース掴めなかったんだろ、お前。別にペース上げんなとは言わないけど…青春は、そんな簡単に逃げるもんじゃねぇよ」

そう言って笑って…“それでも、今この時は一瞬っていうのも分かるけどな”ってフォローを入れるしょっぴーには…やっぱり、叶わない。