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【優吾】
菊池「樹、落ち着いたわ」
黄「ごめん、助かった。Aのことも、ありがとね」
菊池「いーえ」
機嫌良く風磨に抱かれているAは、パパが発作起こしたことにも、にぃにがパニック起こしたことも、ビックリはしたものの何のこっちゃ分かっていないんだろう。
風磨に抱かれて、“パパ、コンコン治ってよかったね”なんて安心した表情を見せているのだから。
“お母さんところ、行かないで…お父さん…”
力なく繰り返す北斗の声が、頭から離れなかった。
“死”をある程度理解できてしまう7歳の北斗と…ほとんど理解のできない…きっとこの先、記憶にすらほとんど残らない2歳のA。
黄「どっちが…いいんだろうな…」
菊池「…どっちも、苦しいっしょ。北斗は、北斗の…AはAの、それぞれの苦しさがある。それに…樹も」
黄「そりゃ、そうか…」
菊池「伝えるしかないわな…根気よく」
落ち着いた…というよりも、疲れ果てて眠ってしまった北斗。
この小さな体が、母親の死をどんな風に受け止めているのか…俺たちはまだ全然理解しきれていないし、北斗自身だってまだ、到底受け止めきれていないんだろう。
それでも心は無意識に受け止めているからこそ…なのかもしれない、なんて思ったり。
菊池「まぁ…これは、樹にも言ったんだけどさ…。仕方ないと思うんだよ。ちぃが…生きれなかったこととか。だって、運命だから」
黄「…うん」
菊池「いいんじゃねぇかな…今のままで。無理に、進もうとしなくて…。そりゃ、北斗も…Aも樹も、俺らだってそれぞれに寂しくて、苦しくて仕方ねえけどさ…。そんだけ、アイツが精一杯生きたって証なんじゃねえかな」
黄「精一杯、生きた…証…」
菊池「失って、こんなにも苦しくなるほどにさ…アイツはそんだけ愛を注いだんだ。このぐらい寂しくなってやんなきゃ…アイツに怒られんだろ」
妙な屁理屈だと、いつもなら笑って受け流したのかもしれない。
でも、真っ直ぐに窓の外を見つめて声を震わす風磨の背中に…その言葉がストンと腹落ちをした気がした。
“いいんじゃねぇかな、今のままで”
あまりに風磨らしいその言葉に、ものすごく救われた気がした。
それだけちぃが、俺たちを…子どもたちを、愛してくれた証なのだから。
-Fin-
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作者名:かん。 | 作成日時:2023年11月30日 20時