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【優吾】
せっかくもらえた、夕方までの時間。
今日だけは…って、病院出る時に思ったように、ただAの願いを全て叶えてやりたくて。
どっか行こうかと思ったりしたけど、思いの外2人でのんびりしてるこの時間が幸せで、どっか行きたい？とか、そんなこと聞かずにいる俺は、ちょっとズルいかな。
「なーんか…」
黄「んー？」
「平和だなぁ〜って」
俺からしたら、Aが今ここにいる時点で、全くもって平和ではないけど、呑気にそんなこと言ってるAは、心底平和そうに大あくび。
ほんと、マイペースなやつ…とか思うけど、こんなに平和な朝を迎えるのは、久しぶりなんだと思う。
この平和な朝を噛み締めるように、何度も“幸せだなぁ”って繰り返すAが、ちょっと切ない。
俺と同じように、まだたったの20年も生きていないAなのに。
黄「夕方まで、どうする？」
「夕方まで…」
黄「ハハッ。ん、今日はね。今日は、先生と、Aママとの約束だから。さすがにそれは、俺も無視できないわけですよ。夕方までだって、結構頑張って勝ち取ったんだからな？」
「ん…分かってるよ。ありがと」
黄「んな顔すんなって、大丈夫だよ」
“ゆーちゃんのだいじょーぶって、なんかすごくだいじょーぶだよね”
“はぁ？なんだそれ、意味わかんねぇ”
子どもの頃、Aはそんなよく分からないことを言っては、ジャングルジムのてっぺんでクスクス笑っていた。
2人でてっぺんに登って、空っぽの空見上げたあの日。
広すぎる、雲ひとつない真っ青な空に、危うく吸い込まれそうだなって思って、少しだけ怖くなったっけ。
黄「大丈夫、大丈夫」
あの日、ちょっと怖くね？なんてこぼした俺を笑っていたAは、今俺の目の前で、小さく肩を震わせてた。
強くて、バカみたいに明るくて、まっすぐすぎるほどにまっすぐだったAだって、ずっとそんなわけにはいかないよなって。
「へへっ…」
黄「なーに笑ってんだよ」
「優ちゃんの、大丈夫は…」
黄「なんか、すっごく大丈夫…ってか？」
「ふふっ。ん、そ…」
黄「だったら、信じとけ」
あと数時間。
残されたわずかな時間にAが望んだのは、“優ちゃんのこと、独り占めしたい”なんて、らしくない…けど、真っ直ぐすぎる願いだった。
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作者名：かん。
| 作成日時：2023年6月12日 19時
