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目が覚めると、優ちゃんの腕の中…とはいかなかった。
けど、どうやら布団を2枚並べてくれたらしい。
横向いて眠る優ちゃんは、2つの大きな手で、そっと優しく私の手を包んでくれていた。
あったかくて、心地よかった。
「ゆ…ちゃ…」
黄「ん…」
「ゆーちゃん…」
黄「だーめ…離すな…」
優ちゃんがハッキリ起きてたかどうかは、正直なところわからない。
けど、キュッと力のこもったその手に、今くらい甘えてもいいのかなって。
もう一度夢の中に潜り込んで、次に目が覚めた時、まだ繋がれていた片方の手と、愛おしそうに頭を撫でてくれる、もうひとつの手。
黄「おはよ」
「ふふっ。さっき、一回起きた」
黄「知ってる」
ゆっくりした朝。
消毒の匂いも、ガチャガチャと慌ただしく看護師さんの行き来する音もない、入院したのはさほど前じゃないけど、そんなのすごく久しぶりな感じがした。
代わりに鼻を掠めるのは、何より落ち着く幼なじみのやさしい香り。
ここ数年は、洒落気づいて香水なんか振ってた優ちゃんだけど、今はその香水の香りもない。
黄「なんか食う？」
「スクランブルエッグ」
黄「生は…ダメだろ」
「ふふっ。寝ぼけてたら、いいよって言うかと思った」
黄「ハハッ。幼なじみ、舐めんな」
治療中は、どうしても下がってしまう免疫機能。
決して禁止されているわけではないけど、なるべくなら避けるように言われてる、生物。
大好きなお寿司も、半熟トロトロのオムライスも、生クリームがたっぷりのクレープやケーキも、今は思うように食べられない。
どころか、ジュースやチーズや、サラダでさえも、入院してからは一度火を通したものしか食べてない。
味気ない食事。
でも、それが私の体にとって必要なことだってのも、そうと分かっていても、やっぱり私がそれを苦痛に感じてることも、優ちゃんは全部わかってくれている。
「ねぇあのさぁ…」
黄「んー？」
「病気、治ったら…オムライス、トロトロのさ。パカーンって、割れるやつ…あれ、食べに行こうね」
黄「ハハッ。…ん、行こう。胸焼けするくらい、山盛りの生クリーム盛ったパンケーキとかな」
「…パンケーキより、クレープがいい」
なんでも叶えてやるって、優ちゃんは笑った。
左手は、握られたままだった。
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作者名：かん。
| 作成日時：2023年6月12日 19時
