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【優吾】
数ヶ月後の、伝統の舞台。
出演が決まったことは素直に嬉しかったけど、どこか素直に喜べなかったのは、そこにある名前が4つしかなかったからだってことは、分かりきっていた。
あん時のメンバーから、大我だけが選ばれた先輩の名を張る舞台出演。
慎太郎だけが選ばれた先輩が主演のドラマへの出演は、後から入ったやつらと、ほんの少しだけ違う立ち位置の役。
それでも、生徒の1人ってことには変わりないって言ってたっけ。
黄「よっ」
「おお、優ちゃん。どしたのー？」
黄「今日、この辺で撮影してた。元気そうじゃん、いつもより」
「うん、元気。いつもより」
黄「あ、これ持ってきた。…いる？こんなの」
「いーるーの。ママに買ってきてもらうのはなんか恥ずかしいし…」
黄「いや、そこ載ってる本人に買ってこさせる方がよっぽどか恥ずかしくね？」
そんなことないって力説してくるけど、俺にはよくわからん。
そんなAに俺が月に2回買ってきているのが、俺の載っている、いわゆるアイドル雑誌。
テレビの露出は、限られた毎週のローカルバラエティぐらいのもの。
そんな中で月に2度、数冊の雑誌のたった数ページにしか載らない俺のことを、もう何年もスクラップして保存してくれているA。
入院しても、変わらず。
「あははっ！なにこれ、チャラ」
黄「ちげぇの、そういう注文なの」
「今月樹くんなんかカッコいい」
黄「なんかとか言うなよ、あいつ泣くぞ」
「ふふっ！っ、ｹﾎｹﾎｯ…ｹﾎｯ」
黄「っと…大丈夫？」
ドラマに出ているメンバーは、ドラマの紹介ページにも登場をする中、俺はメインの1ページだけ。
ほんの少し、悔しいと思える気持ちがまだあった。
まだ少し咳き込むAの背中をさすりながら、ちっちゃな声で思わずこぼれた言葉。
“ごめんな、少なくて…”
そんな俺の言葉に、いつもだったら“なに言ってんの？”ってカラりと笑うAが、ちょっとだけ苦しそうにこちらを見上げて笑っていた。
「…ゆーちゃん？」
黄「ん？」
「…やめても、いいよ」
黄「えっ…」
「辛かったら…苦しかったら…優ちゃん、アイドル…やめてもいいよ。…優ちゃんは十分、私の自慢の幼なじみだからさ」
無責任でごめんねと、Aは小さな声を震わせていた。
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作者名：かん。
| 作成日時：2023年6月12日 19時
