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「…っ」
急に込み上げてきた強い吐き気に、あぁ…また始まるんだな…なんて気持ちが一緒に込み上げてきた。
悔しいけど…苦しいけど…頑張れる気がしていた。
“会いに行っちゃダメなんだって”
未熟児で生まれ、小さい頃から呼吸機能が不十分だった私は、たぶん周りのこと比べたら病院で過ごすのは当たり前だったんだと思う。
時折入院をしたり、周りの友達よりも風邪をひきやすかったり、拗らせやすかったりして、病院へ行く回数が多かったり。
それでも、長期入院なんてことは少なかったはず。
初めて、そんな事態になったのは中学生の時。
“Aはね、癌なんだって”
いつもは真っ直ぐに私の目を見て話してくれる母が、初めて一度も私と目を合わせずに伝えた事実。
黄『会いに行っちゃダメなんだって』
「ん、知ってる。だって決まりだもん」
黄『決まりって、窮屈だね』
12歳の私たちは、手にしたばかりの携帯電話で、そんな年頃の子どもには似つかわしくない言葉を交わした。
初めての苦しい治療。
母は、休職をしてまでつきっきりで看病をしてくれたのを覚えてる。
それでも、すごく苦しかった。
ひとりぼっち、みんなと同じ世界から取り残されてしまった気がしていたんだと思う。
でも…今は、違う。
黄『もしもしー？』
「…ふふっ。なぁに？」
黄『いや？…そういう日かなぁって』
「せーかい…。すごいね、ゆーちゃん」
黄『まぁね』
今日は大学でこんなことして、そのあと仕事でこんなことがあって…なんて、ただ一方的に優ちゃんが話してくれるそんな時間。
また抗がん剤治療に戻るそのことが悔しくとも頑張れるのは、ベクトルは違えど頑張ってる人がいるってのを、近くに感じられるから。
緑『あ！Aちゃんー！』
「ふふっ…うるさいよ」
緑『また俺も、会いに行っていい？』
「んー？へへっ…だーめ。慎ちゃん、ドラマ忙しいでしょう？」
それ、風磨にも言ってたよねって笑ってる慎ちゃん。
風磨だとか、慎ちゃんだとか…。
本来なら…一般人の私が、出会うはずもない人たちだったんだと思う。
だから、必要以上の関わりを持たないようにしないと…なんて思ってた私の気持ちを、彼らは一蹴してくれた。
“人は、必要な時に必要な人と出会う運命なんだから”と。
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作者名：かん。
| 作成日時：2023年6月12日 19時
