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いつもの、病室。
帰ってきちゃった…とは、思わなかった。
思えなかった。
優ちゃんに連れ出してもらって、優ちゃんと、たった1日だけど、思いっきり楽しいことを、やりたいことをした。
生憎、全部できたわけじゃないけど、それでも、優ちゃんがここから手を引いて連れ出してくれたあの瞬間から、ここにもう一度戻ってくるまでの時間、すごく幸せだった。
黄「ん。…いい顔してる」
「…そんなこと」
黄「あの喫茶店いた時より、全然マシ。どんだけ死んだ顔してたと思ってんだよ。まぁ、体調悪かったのもあるんだろうけどさ。…すっげぇ、苦しそうだったよ。心」
「なら…優ちゃんのおかげ。ありがとね、1日…大人から、勝ち取ってくれて。嬉しかった。すっごい、嬉しかった。幸せだった」
幸せすぎて、罪悪感が芽生えたんだと思う。
優ちゃんに、全部を言えなかったそのことに。
黄「…なんだよ」
「えっ…」
黄「いや、めっちゃこっち見てたから」
“だからさ…お前、俺に隠し事できると思ってんの？”
いたずらっ子みたいに笑って、もうなんでも受け止められるから、心配せず全部言えって、そんな頼もしいこと言ってくるんだ。
まるで、私がなにを隠してるかなんて、全部お見通しみたいに、優しく笑う優ちゃんはズルい。
その顔されたら、隠し事なんてできないのも、全部知ってるくせに。
黄「…言えない？」
「…っ」
黄「A…？」
「泣かない、し…」
黄「ん、泣くな。今は」
泣きそうな女の子に、“今は泣くな”なんていうアイドル、きっと私の幼なじみだけなんだと思う。
本当に…誰より、私のことをわかってるのはこの人なんだろう。
親だって知らないことも、話せる幼なじみ。
ずっと、そんな関係だったのに…お互いがちょっとだけ分からなくなっちゃったのは…いつからだったっけ。
黄「…言える？どっか行く？」
「…っ、ここで、いい」
黄「ん。…っと、A？そんな焦んない。息、速い。ゆっくりで、いいから」
「…ゆ、ちゃんっ」
黄「んー？」
「5年後…っ、5年…後…私が、20%に、残ったら…残れ…たらっ…」
“5年生存率、19.7%”
私が、逃げ出した理由。
黄「俺、ちゃんと…Aんこと、今でも知ろうとしてっから」
幼なじみは、やっぱり変わっていなかった。
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作者名：かん。
| 作成日時：2023年6月12日 19時
