51 ページ1
【優吾】
“好きだよ、優ちゃん…”
夢だったのかな、なんて。
嬉しいとか、やっと気づけた両片想いだとか、そんなの浸るでもなく。
「優ちゃん」
黄「んー？」
「ふふっ。んーん、なんもない」
黄「なんだよ、めんどくせ」
「うわ、口悪っ！アイドルのくせに」
黄「お前だってうっせーわ、病人のくせに」
元気な病人もいるんだってさ。
さっきまで、あんなに苦しそうに泣いて、思い詰めて、思い詰めすぎて、抱えきれなくなって、全部投げ出して、俺んとこ逃げてきたくせに。
いや…俺んとこに、逃げてきてくれた、の心境だけど。
「はぁっ…」
黄「…苦しい？」
「ん…ちょっと、っ、ﾊｧ…」
黄「薬、ある？それとも…」
「一回、飲まずに…っ」
黄「わかった。…ふふっ。大丈夫だよ、無理やり帰したりしない」
「ん…」
黄「…泣き虫」
“うっさい”
とは、言われなかったけど、言いたげな顔を向けられた。
そんだけで、十分。
黄「あのさ…」
「…ん？」
黄「あぁ、ごめん。聞くだけでいい。…んっとさ。まぁ、そういう関係には…いまの状況で、ならないと思う。なれないと、思う。もちろん、そういう奴がいないわけじゃないし、そんなルール…言っちゃえば暗黙の了解で、明確なわけじゃない」
誰かに言い訳してんのかなって。
誰への言い訳でもない。
強いて言えば、俺への言い訳。
きっとまだ、何かあったときにAを守ることもできない、ほんの少しだけ覚悟を決めた、ただそれだけの、でもまだこの先どうなるかわからない…アイドルの卵、なんて言えば聞こえがいいけど、未来があるかもわからない。
そんな自分が、それでも大切な幼なじみを…好きな女を…ダサくも、繋ぎ止めておくための…そんな言い訳。
黄「でも、俺は…ちゃんと未来が見えるまで、やり抜く。できるとこまで…続けてみる。だから、待てなくなった時には…これまでみたく、離れてくれていい」
「…っ」
黄「けど…この世から離れんのは、許さねぇから」
「…ん。離れ…ないよ」
“この世からも、優ちゃんからも”
ごめんな、A。
でもさ、俺…嬉しかったんだよ。
お前が、俺の不確かな未来に賭けてくれたみたいで。
でも、そんなこと言ったらさ…“どうせ私の未来も不確かだよ”って…お前、笑うんだろ？
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 263人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かん。
| 作成日時：2023年6月12日 19時
