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【優吾】
とりとめもない俺の話を、黙って、別に頷くでもなく、相槌打つでもなく、それでもずっと聴いてくれてるA。
Aから連絡が来て、あまりにいつもと違うメッセージの内容に、頭が真っ白になって家を飛び出したこと。
“逃げちゃった”
“ごめん”
立て続けに届いたそんな2つのメッセージと、何度も何度も打ち直したのか、結構な時間を空けて届いた4文字。
“くるしい”
どこにいるのかとメッセージを送っても、既読がつくばかりで返信なんて来なくて、焦る気持ちを必死に抑えて、ただひとつ心当たりに車を走らせたこと。
1時間だけのお願いするつもりが、気づけばあと1日の猶予を口走ってたこと。
黄「多分さ…俺も、痛かったんだよ。お前と、一緒に」
一回病院戻ったときの、Aのしょぼくれた背中見て、やっぱ一生Aを守り続けたいって思ったこと。
でも、それと同時に思い出したのは、あの日病院で聞いたAの“アイドル”である俺に対する強い思い。
黄「俺、あの日からすっげぇ考えて…。さっきも言ったけど、大前提…俺はお前の幼なじみで、お前のことが…めちゃくちゃ、大事。けど…多分、今…俺…」
「…優ちゃん？」
黄「ハハッ…ん、大丈夫。…俺、たぶん今さ…自分でも思ってなかったくらい、楽しい。…なんだかんだ、知らぬ間に飛び込んだこの世界、好きなんだと思う」
まだきっと、デビューしていった風磨や、他の先輩たちみたいな覚悟は持ちきれていないことだって、情けないくらい、十分に自覚している。
でも、アイツらと離れたくないって思ったり、なんのやる気もなかった俺が、いつだって辞めてやるって思ってた俺が、アイツらとなら頑張ろうと思えたことも、今アイツらといないことに、違和感しかないってことも。
たぶん、知らず知らずのうちに…アイツらと出会ったことで、俺は仕事への向き合い方が変わってきてたんだって、そう、気づいたんだ。
「優ちゃん…あのね…」
黄「ん？」
“好きだよ、優ちゃん…”
黄「…っ」
「でもっ…！でも…わかってる。そういう、関係に…なるのを、望んでるわけじゃない。…でも」
黄「大丈夫、わかってる。…わかってるから。だから…」
“生きて”
俺とAとの、あまりに遠回りすぎる恋が…始まった。
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作者名：かん。
| 作成日時：2022年11月4日 20時
