48 ページ48
一生乗ることなんてないと思ってた、優ちゃんの車。
さすがに、何かあったら困るからって、助手席はやめておこうと思ったのに、深くキャップを被せたまま、優ちゃんはわたしを助手席に乗せた。
後部座席でしんどくなって、なにかあったら嫌だって。
そんなことはきっとないってわかったけど…そうなったって、優ちゃんはそれなりに対応してくれるんだと思ったけど…わたしも、それを言い訳にした。
黄「誰に言い訳してんだろうな、俺たち」
「ふふっ。…世間だよ、世間」
黄「スケール、でか」
「…もっと、大きくなるよ。きっと」
それが、“きっと”なんていう憶測だったのか、それともわたしの願望か。
そんなに考えなくたって後者なんだけど、いつか優ちゃんは、もっともっと大きな世界に羽ばたくんだって、なぜだか信じて疑わなかった。
だから、今のうちに…なんてね。
黄「ハハッ。なに、緊張してる？」
「…してないし」
そっと右側から伸びてきた優ちゃんの左手。
いつもより、ちょっぴりその手は冷たく感じた。
でも、心は少し、温かくなった。
黄「A…酔った？」
「え…？」
黄「あ、いや。大丈夫ならいいんだけど、顔色悪い」
「んーん、大丈夫」
せっかく温かくなった心が、冷や汗かいた。
ほんのりと、夢見たそんな時間が過ごせているような気がしたし、過ごせるような気がしてたから。
だから、優ちゃんの言葉に、急に現実が見えてしまったようで。
でも…優ちゃんは、そんな私だって全部お見通しだから。
黄「んな顔すんなよ。俺が望んで、俺が大人に頭下げた。そりゃ、お前が自覚ありでマジで危ないんなら、俺だって帰ろうって言うけど…違うんでしょ？」
「ん…」
黄「なら、突っ返したりしねぇよ。つか、まだ始まったばっかだから。な？」
「っ…」
黄「ハハッ！ねぇ〜、泣かないでって」
「泣きたくないもん、Aだって…」
黄「その顔じゃ、ソフトクリーム買いに行けねえじゃん」
信号で止まるたびこっちを見て、ケタケタ笑い続ける優ちゃん。
助手席の笑顔を見ると、なんだか安心した。
この先もずっと、この笑顔を…この場所で、見ていることを望みたくなってしまう。
そんなの…叶わないって、私が一番わかってる。
わかってるから、せめて今くらいは…。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 446人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かん。
| 作成日時：2022年11月4日 20時
