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【優吾】
“逃げちゃった”
“ごめん”
立て続けに送られてきた、2通のメッセージ。
久々の、AからのSOSだった。
あの日、強がって俺の前で嘘を並べたAだったけど、こうしてその嘘が、ちゃんと嘘だったことを、無意識に行動で示してくるんだから。
きっと、それを“都合いい”って思うやつもいるんだろうけど、そこは俺の、惚れた弱み。
黄「ここだと思ったわ」
「…っ！」
おいおい、俺呼んだくせに、男に慰められてんのかよ…。
いや正確には呼ばれたわけじゃないけど…でも、あんなの呼んだも同然で…なんて思いながら、カフェの隅っこ、死角になる場所へ。
Aの顔覗き込んで優しく背中さする男を威嚇するように少し低い声出せば、真っ赤な目を潤ませる隣には、よく知った顔。
菊池「たまたま会っちゃったら放っておけなくて…。あ、向こう樹いるけど」
黄「…ありがと、助かった。…A？」
「っ…ﾊｧ…」
菊池「…熱、そこまで高くないけど、多分あると思う」
黄「あらら」
動揺してないように見せてるけど、これ、すげぇ心臓なんてバックバクなんだから。
ここしかないって思って来たけど、もしもここに居なかったらどうしようとか。
俺が着く前に、倒れたりしてたらどうしようとか。
気が気じゃないって、きっとこういうことを言うんだな、なんて思いながら、無我夢中でここまで来た。
黄「A？…俺の、勝ち」
「…ゆ、ちゃん」
黄「ん？」
「…もうちょっと、だけ…帰りたく、ない」
黄「…」
と、言われましてもなのよ。
…とは思いつつ、昔病院から逃げ出した時となんも変わってないAに、あの頃とは違って、ちゃんと連絡よこしたAが、少しだけ嬉しかった。
“も、ちょっと…だけ…ﾊｯ、っ…2人が、いいっ…ﾊｧｯ…”
細く壊れそうな腕で、あまりに必死に、有無を言わさぬ力で、焦って救急車の番号もわからなくなった俺を制した、中学生のA。
幼なじみの勘だけを頼りに、手当たり次第、小さな田舎町を駆け回った日を、つい数日前ように思い出す。
駆け回らなくてもどこにいるか分かっただけでも、あの日からまた積み上げた時間は、無駄じゃなかったみたいだ。
黄「A？…1時間だけ、だよ？」
その言葉に、君は安心したように笑うんだ。
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作者名：かん。
| 作成日時：2022年11月4日 20時
