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【優吾】
母親からの熱烈なラブコール…に近いような、半ば脅しのような“帰ってこい”に負けて、結局実家で過ごすことになった年末年始。
とはいえ、俺もなんの予定もない年末年始ってわけでもなくて。
黄「俺だってそれなりに忙しい」
母「はいはい、わかった。とりあえずそれ、Aのところ届けてきて？」
黄「…っ」
母「あのね〜…なにが恥ずかしいんだか知らないけど、別にそれ届けてくれたらそれでいいの。どうせA、しばらくいないんだから」
黄「…えっ？A、いねぇの？」
母「え、なに？あんた知らなかったの？」
どうせ、友達んとこか彼氏んとこか、よくわかんないことして家空けてんだろう…なんて勝手な思い込みで、自分を納得させようとしてた。
それなのに、少しざわつく胸。
頼むからこんな予想は当たってくれるなと、俺の願いは虚しくも散ってしまうわけで。
母「入院してんのよ、先週ぐらいから。なんかちょっと、調子良くなかったみたい。一回夜に救急車来て、そのままって感じ」
黄「え…」
母「え〜、母さんてっきりアンタは知ってるもんだと思ってた。割と落ち着いてはきたみたいだけど、年末年始は帰ってこれないって聞いた…ねぇ！ちょっと！優吾っ！」
母さんの言葉なんて半分振り切るように、頼まれたものだけ手に持って、慌てて飛び出す実家。
…とはいえ、これ持ってったところでどうする？
ふと家を飛び出てすぐに冷静になる。
でも、たった3件隣のAの家はもう目の前に見えているわけで。
母「あれ？優ちゃん…？」
黄「うおっ！Aママ。…あ、その…っ、えっと…」
母「ふふっ。ありがとね。それ、多分うちの分のおせちだと思う」
黄「あ〜…うん、なんかそんな感じの重み」
母「ごめんね、面倒かけて。それ、もらう」
本題に切り込めないまま、思うように話せないまま。
結局、“A、連絡とってる？”って、そんな気を使ってくれたAママの言葉に助けられる情けなさ。
黄「さっき…母さんに聞いて、それで…」
母「ごめんね、心配かけた…かな？とりあえずね、今は落ち着いてて。お正月明けたら退院もできるの決まってるから」
“良かったら、連絡してあげてね”
そんなAママの言葉に、なぜだか苦しくて頷けない自分がいた。
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作者名：かん。
| 作成日時：2022年11月4日 20時
