どんな明日も… (ページ25)

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【北斗】

「あれ…？北斗くん？」

咄嗟に、マズいと思った。

けど、それが取り越し苦労に終わったと感じたのは、その声にいささか聞き覚えがあったからで。

その本人を頭に浮かべて振り返れば、やっぱり。

黒「なにしてんの？」

「コンサート帰りです、あなたたちの」

黒「…に、見えなさすぎて確かめたんだけど。やっぱりそうだったのね」

「そ。ていうか…本当に、普通に帰るんだね。しかも電車で。え、私離れたほうがいいよね？コンサート帰りの人が北斗くんと一緒にいるとか、かなりマズいよね？」

一人テンパる目の前のお姉さんは、俺が数年前に髙地や風磨の家でお世話になってたあの頃となんら変わらない。

しっかりしてそうに見えて、どこか抜けていて。

芯を持っていそうなのに、なんとなくフワフワと…いつか消えてしまうんじゃないかって思う、そんな人。

色に例えれば、絶対に黒に近しい強さを持った人なのに。

黒「この時間なら大丈夫。お世話になってる人って、ちゃんと言えるし。何もやましいことないんだからさ。案外、堂々としてればこんなの大丈夫なもんだよ。昔からAちゃんは、心配しすぎ」

「心配もするよ。…今をときめく、なんでしょう？」

黒「誰からの情報よ」

「まぁ、私だってごく一般的な大学生なのでそういう話が周りにはゴロゴロと転がってるわけよ。ほっくんって呼ばれてるんでしょ？可愛いね」

黒「ハハッ、絶対それバカにしてるでしょ？」

してないよ〜って笑うAちゃんは、あの頃と何も変わっていなかった。

なのに、どこか今日は寂しそうに見えるのは…気のせい？

黒「どうだった？コンサート」

「んー？」

黒「素直な感想、聞きたい。初めてでしょう？俺たちのコンサート観にくるなんて」

ただ言葉の通りだった。

直接感想が聞ける機会なんてそうあるもんじゃないから、純粋に気になっただけ。

なのに、そんな寂しそうな顔するんだもん。

黒「なんかあった？って、聞かれんの待ってるみたい」

「そんな面倒くさい女になりたくない」

黒「だろうね」

髙地には内緒にしておくけど？って伝えたって、ヘラっと笑う目の前の彼女は、きっと何も言わないんだと思う。

そうやって、色々抱えてきたことは知ってる。

だからこそ、俺が心を開けた相手なんだから。