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【優吾】
桃「なんか…もう、潮時かなーって思って」
“京本さんと、ここにいます”
京本さん…？
あまりに二人が結びつかなすぎて、一瞬はそんな思考になったけど、そんな名前心当たりはひとりだし、アイツなら警戒するだろうと、指定の場所を見て思う。
言われるがまま、変更された待ち合わせ場所で聞こえてきたのがそんな会話だったから、ちょっと近づくのを躊躇うところまでがセット。
「…やめちゃうんですか？」
桃「うん。…その、つもり」
「そっかぁ…」
桃「ありがたいことに、仕事はいただいてるから…簡単にはやめられないけど。まぁ、ドラマの時ほどじゃないし。コンサートが終わったら、学校始まって落ち着くし」
聞こえてくる話は、思ってもなかった会話。
まぁ、おおよそこの世界をほとんど知らない一般人に話すようなことではないのかもしれないけど、それでも彼女に話してしまう不思議な力があるのを、俺は知っていた。
なんか分かんないけど、話すと楽になる、受け止めてもらえるであろう、そんな安心感。
桃「今度のコンサート、�眞呂�呼んでるんだよね？」
「えーっと…あ、9月の？」
桃「そう、それ。珍しく�眞呂�人呼ぶって言ってたから、気になってた」
「珍しいですよね。私も、ちゃんと来て欲しいって言われたのは…初めてかも。今の話聞くと、もしかすると…なんか思ってるのかもね。優ちゃんも」
変なとこ勘繰んなよって言いたいけど、あいにくコッソリと話を聞いているもんで。
もどかしい気持ちを抱えながら、趣味悪く耳を傾け続ければ聞こえてくるのは、彼女の本音。
「…私、時々思うんです。優ちゃんの人生狂わせたかなって」
桃「なにそれ、話が壮大」
「私なんですよね、履歴書送ったの。高校でもサッカー続けるって決めてた優ちゃんを、この世界にぶち込んじゃったっていうか…」
“優ちゃんに、夢託しちゃったんです…私”
それは、初めて聞く話だった。
Aが俺のことを、あんな突拍子もなくこの世界に投げ入れた“本当の理由”を。
でも、それを聞くことに耐えられるほど…俺はまだ、大人になんてなり切れてなくて。
黄「ごめん、ちょっと取材長引いちゃって」
「ふふっ。んーん、京本くん優しかったから大丈夫」
その続きは、まだ聞く勇気が…ない。
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作者名：かん。
| 作成日時：2022年11月4日 20時
