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【優吾】
今の彼氏は優しくて、大人で気配り上手で…なんて、何度聞いたか分からないAの新しい彼氏の話。
この間の彼氏も、優しいだのなんでも知ってるだの褒め倒してたような気がするんだけど、気のせいだったっけ？
と、本人に言えないのは、そんな話をしている時のAがどうにも楽しそうで、嬉しそうで、なにより生き生きしているから。
なのに…
黄「は…？」
歌番組の収録を終えて、そこそこ遅い時間に家へ帰れば、俺の部屋に小さな電気。
俺のベッドで小さくなってるもんだから、リビングで呑気にテレビ見てる母さんに、なんでA来てんの？って聞けば、“あ、忘れてた”って。
どういうことだよ。
黄「A？…A、一回起きな」
「ん…っ、ｹﾎｯ」
黄「え、ちょっ…え、どした。…っ！」
飲まされたんだろうなって、一発でわかった。
大学の友達や地元のやつらを見ていれば、つき合いや、ちょっと粋がってそういうことしてるやつもいるけど、Aの場合は違う。
なにが優しくて大人で気配りのできる人だよ…その男が飲ませたんだとしたら、大問題だぞ…なんて思いながらも、そんな状況で俺を頼りにしてくれたんだとしたら…。
「…っ、ｹﾎｹﾎｯ」
黄「薬、飲ん…だらマズいか、さすがに。ちょっと待ってて」
「っ、や…ゆ、ちゃ…」
黄「下行ってくるだけ。すぐ戻ってくるから。な？」
「…いや、っ」
黄「…わかった。もうちょっと、ここいるわ」
あまりに珍しかった。
Aは昔から、人に頼ることが苦手だったから。
頼るのが苦手というか、弱さ見せらんないというか。
物心つく前からずっと隣にいる幼馴染の俺にでさえ、泣き顔をほとんど見せたこともないどころか、甘えることも、弱さ見せることも稀だったA。
「ゆ、ちゃん…」
黄「はいはい。ここいるよ。…今日みたいなのはさ。逃げなきゃだよ、A」
「っ…」
黄「お前は、ずっと病院閉じ込められてて知らないだろうけど…男は、みんなオオカミなんだから」
“優ちゃんだって男じゃん”って…そのくらいの屁理屈は返ってくると思ったんだけど。
「好き…だったんだもん…」
そんな悲しそうな声で言われたら…慰めるしかねぇじゃんよ。
思えば、こんな風にAを慰めたのは、この日が最初だった。
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作者名：かん。
| 作成日時：2022年11月4日 20時
