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【優吾】
進路も決まって、卒業式も終わり。
何をするでもない日の朝、ドタバタとうちの階段を登ってきた幼なじみ。
「優ちゃん、写真！写真撮らせて！」
黄「はぁ？…なんでだよ」
「いーいーかーら！ね、おねがいっ！」
強引に俺を玄関まで引っ張って、1枚だけでいいから！と言いながら、2枚も3枚もパシャパシャシャッター切るA。
彼女の行動は、いつも唐突だった。
黄「それ、なんに使うの」
「んー？オーディション」
黄「ふーん。…は？」
「だから、オーディション。大丈夫、優ちゃんならいけるって。だめで元々」
黄「いや、ダメ元なんじゃねぇかよ」
最終的には、私の誕生日プレゼントだと思ってお願いひとつ聞いてくれだなんてわけの分からない理由を押し付けられた俺。
そういやもうすぐか…なんて、机の引き出しにしまった小包を思い出す。
女の子に誕生日プレゼント、なんて柄じゃないけど、コイツだけは特別。
“死ぬのは…っ、もっと、嫌だっ…！”
あの日まだ夏の暑さがジリジリ残る海辺でAが苦しそうに吐き出したその言葉は、やけにうるさく響いた波音と共に、2年経った今でもずっと俺の耳に残ってる。
あの年以来、ひとつ歳を重ねることの尊さを覚えた俺は、Aが生きた証を残したくて。
誕生日プレゼントは、Aが生き抜いた一年への俺なりのご褒美的な。
「優ちゃん！」
黄「ん？」
「優ちゃん、すごいよっ！あんな寝癖まみれの寝巻きジャージ姿の写真で書類審査通っちゃった！」
数日後、一次審査通過のお知らせがファックスで届いたその日は、まるで狙ったかのようにAの誕生日で。
あまりにAが興奮してるもんだから、あれ？なんかすごいこと起きてる？なんてそのレベル。
用紙に記載された日は高校のサッカー部の体験会。
もちろんサッカー優先するつもりだったのに、Aはわざわざ家まで呼びにきて。
数ヶ月後には…世界が変わっていた。
“もう何を言ってんのかまったくわかんなかったけど、最 終的に押しきられて”
“覚えてるなあ。写真を撮られたとき、ほぼパジャマみたいな上下白のジャージで、しかも寝グセだった(笑)”
あれから10年以上。
俺がこの10年を振り返ってそんな話するアイドルになってるなんて…お前、あん時想像してたか？
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作者名：かん。
| 作成日時：2022年11月4日 20時
