【199】JURI ページ49
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樹「帰るー？」
「うわ…」
樹「一人で帰んなよ、不良娘が」
「自分だって抜け出してんじゃん」
あぁ言えば、こう言う。
休み時間、教室戻ったら荷物全部なくなってんだもん。
そもそもいつの間に教室戻ったんだって話だけど、これ、もはや失踪だからね？
なんて思って学校の周りフラフラ探し回れば、案外すぐに見つかったA。
樹「保健室来るのすらしんどそうだからって、桐山には誤魔化しといた」
「…ん」
樹「頼んでない、とか思ってんだろ。…ま、北山にはバレバレだったし、ほどほどにしとけよ」
「…別に、ほどほどだし」
樹「てか、普通に体調悪いなら…」
「違う。…体調、悪くない。ちょっと、気分が乗らないだけ」
樹「心と体って、つながってんだよ」
あぁ言えばこう言うのは、俺だって一緒だ。
むしろ、俺の方が口は達者だっつーの。
それと…Aの不調が心だけか体まで言ってんのかくらい、俺らの方がよく分かってる。
“おにいと暮らせれば、それでいい。もう…あの家には戻りたくない。…って、思ってるはずなんだけどね”
つい数日前、俺たちの前でそう言ったA。
頭ん中、ぐっちゃぐちゃなんだろうなって思った。
自分の病気のこと、追い詰められた翔太くんのこと、それに、離れた家族のことまで、気持ちなんてひとつに収まるわけないんだよ。
それでも、きちんと整理してひとつにまとめようと必死になるのはAらしいっちゃAらしいんだけどさ。
樹「どうせ、家帰りたくねぇんだろ？」
「そんなこと…」
樹「いいとこ見つけたから、行かね？」
「いいとこ…？」
樹「ん。マスターに教えてもらった、穴場」
手を引いて、2人で乗ったのは反対方面の電車。
向き合わなきゃ行けない現実も、進まなきゃ行けない未来もあるんだろうけど…今くらい、別にいいだろって。
正反対に逃げたって、そのまま回り道してたどり着きゃ、なんの問題もない。
それなら別に、今くらい。
「うわっ！めっちゃキレイ！」
樹「夕方までいれば、もっとキレイ」
「ふふっ。ズル、こんないい景色独り占めしてたんだ」
樹「だから連れてきてんだろ」
「…次は、みんなで来ようね」
樹「当たり前だろ」
ただ、笑っててほしい。
本当に、ただそれだけ叶うなら…それでいいのに。
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作者名：かん。
| 作成日時：2022年4月18日 12時
