【167】FUMITO ページ17
結局昨日の夜はどうにもAが心配で、仮眠室で一夜を過ごした俺。
発作こそ起きなかったものの、気持ち悪さは治らないみたいで夜中にコール。
苦しそうに波打つ背中をさすりながら、今日の薬剤は中止しておこうかと悩ましいところ。
河合「いいよ、俺いるわ…」
「せんせ…」
河合「ん？しんどい？」
「明日も、がんばる…」
河合「ふふっ。…ん。わかった。じゃぁ頑張れるように、寝てください？ね」
わざわざ俺の手を掴んでまで呼び止めるなんて、珍しい。
口じゃ強気なこと言ってるけど、Aのこれは…寂しいの、怖いの、不安のサイン。
河合「寝るまでいるから。安心しな」
しばらくはまだ制吐剤が効いてくれずにモゾモゾしていたAだったけど、30分もすれば落ち着いてきたのか、少しずつ俺の手を握る強さが柔らかくなってくる。
医局に戻ろうかと思ったけど、結局Aの病室で一夜を明かした俺だった。
「せんせ…？」
河合「ん、ぁ…おはよ。寝れたみたいだね」
「ん。…お薬、入れた後は大丈夫だった」
河合「ねぇ、A〜…。お薬、どうする？この後の検査の結果見て、にはなるけど…前のに戻そうか…？」
どっちでもいいよって伝えれば、それなら頑張るって。
Aがそう言うことは分かってたのに、これは俺が聞き方を間違えた。
河合「これさ。最初に聞くべきだったんだけど…なんでそこまで、この1週間にこだわるの？」
「ん？」
河合「どうしても、1週間で帰りたいんだろ？」
「…だって、冬休みだし」
もし、この治療をまだ続けるとすれば、多分副作用には耐えてもらわなきゃいけなくなる。
正直、今日の様子を見てとも思ったけど、昨日の夜のことを思うと、1週間で退院は…厳しい。
河合「…お出かけしたい日とかあるんだったら、その日だけ外出する？」
「…やっぱ、1週間は厳しい？」
河合「と、思っておいた方がいいかな」
そう伝えれば、やっぱり甘く見過ぎてたよねぇ〜って、ヘラりと笑うA。
ほんと…感情が読めない。
「…あのさ」
河合「んー？」
「会いたいと思った時に…会いたいなぁって。そんな日常が、欲しくなった」
“年明けには帰れるかな？”
そう言って目を潤ますAを前に、半分だけでもそんな日常を、夢見させてやりたかった。
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作者名：かん。
| 作成日時：2022年4月18日 12時
