09.正直もうそれどころじゃない ページ9
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誰かと一緒に帰宅するのは初めてだった。スーパーの袋を置いてある程度片したら、早速夕飯作りに取り掛かる。新山くんはといえば、帰宅早々ベランダに直行した。最近、本数増えたような気がする。気のせいかな。
「出来た？」
「待って、全然まだ」
煙草の残り香を纏った新山くんがキッチンを覗き込む。そんなに早く出来上がったら凄いなぁと笑ったら、する、と新山くんが抱き着いてくる。それはもう、さも自然な事のように。
「…A」
「ん？」
あ、キスされる。この流れ、この雰囲気、絶対そう。そう思って目を閉じるのに、いつまで経っても触れる気配がない。おずおずと瞼を持ち上げると、悪い顔した新山くんと目が合った。
「……期待した？」
「〜〜…ッ、…してない、けど？」
期待というか絶対キスの流れだったし、と強がってみるけど新山くんはふーん、と言うだけ。その余裕ありげな感じもちょっとムカつく。頬が熱い。あーもう最悪、絶対顔赤い、
「かわいい」
「っ、ん…」
……この、ばか。かわいいって簡単に言うな。好きを自覚してからのこれは、あまりにも破壊力が大き過ぎる。新山くんの為にハンバーグ作って、作ってたら後ろから抱きしめられてからかわれて、それでこれだ。更に「かわいい」のおまけ付き。
「新山、く…」
「……ん？」
「も、…っくるし、」
舌が入ってくるとか、そういうキスじゃないのに絶えずちゅ、ちゅ…って繰り返されたら恥ずかしさも相まって上手く息が出来ない。隙間を縫って何とかそう伝えるのに、…隙間を作ってしまったが最後、侵入してきた舌にいとも簡単に捕らえられてしまった。…苦い、煙草の味。新山くんの味、
「…これ以上やったらあかんわ、流石に」
「……新山くんキス上手すぎ、」
唇がようやく離れていく。肩を上下させながら乱れた呼吸を整え、恨めしくそう呟いた。触れ合わせるだけの、挨拶みたいなキスばっかりだったのに。……はぁ、とため息を零しながらもう離れて、と身をよじる。
「余韻に浸らせてや」
「…ハンバーグいらないんだね？」
「いります食べます離れます」
じと、と新山くんを見ると慌てて離れていった。宜しい。あっちに座って待ってなさい。
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作者名：あず | 作成日時：2024年2月12日 17時
