04.合図が聞こえたら ページ4
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新山side.
カラカラ、と窓を開けてベランダに出ると冷たい風が頬を撫でた。思わず身震いする。でも寒空の下で吸う煙草も悪くないもので(むしろ好き)、カチ、と火を付けながら手すりに歩み寄った。
すると隣の部屋からカラカラ、と同じように音がした。あ、やば。苦情言われるパターンか？しかし、その心配は不要だったようだ。ふーーっと長いため息がしたかと思ったら、微かに独特な香りが漂ってくる。…何や、隣も喫煙者か。
最近引っ越してきたらしい隣人は、しょっちゅうベランダで煙草を吸っていた。そういう俺もほぼ毎日ベランダで吸ってるけど。今日も今日とて煙草をふかしていると、隣人の姿が見えた。俺と同じように手すりに寄りかかってぼんやりと夜空を見上げている。…あ、女の人やったんや。
「………」
「………」
「……あ、どうも」
「どうも」
あかん、思い切り目が合ってしまった。流石に無視するのも変かと思って「あ、どうも」ってつまらん挨拶をしてしまった。最悪や。
「……最近、よく煙草吸ってますよね」
「まぁ、はい、」
「電子美味いっすか」
「はい、」
…………アカン、会話が続かへん！！！！！！！！
この子「はい」しか言わんやん、会話広げようとかないの？！そちらは紙なんですねーとかあるやん多分！！！
空気に耐えられなくなった俺は、半分くらいしか吸ってない煙草を揉み消して「じゃあ俺先戻りますわ」と言いながら室内に逃げ帰ろうとした。
「……おやすみなさい」
窓に手をかけた時、板の向こうから間違いなく声がした。さっきまで「はい」しか言わんかったやん。おやすみ、って俺に言ったん？
じわじわと、胸の辺りが温かくなるような不思議な感覚がする。普段一人だから、実家にいた時は当たり前にあった挨拶というものが日常から抜けていた。…うれしい。なんか分からんけど、うれしいと思った。
「…おやすみ！冷えるからそっちもはよ部屋戻りや」
……ちなみに.この時のことをAに聞いたらコテコテの関西弁が返ってきてビックリした。だそうだ。
この日以来、俺とAは喫煙仲間になった。時間を決めている訳ではない。でも、隣からカラカラ、と音がしたら煙草に手が伸びるようになっていた。
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作者名：あず | 作成日時：2024年2月12日 17時
