13.隣にいて欲しい人 ページ13
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「はーー……」
うんと伸びをしながらベランダに出ると、生ぬるい風が頬を撫でた。そろそろ暑くなるのかなぁ、とかそんな事を考えながら煙草を口に含むと隣からカラカラ、と窓が開く音がする。
「おかえりー」
「ただいま。今日なんかぬるない？」
手すりから少しだけ身を乗り出して左隣を覗くと、煙草を咥えた新山くんが見えた。あっという間に夏が来るよと言うと、暑いの嫌やなーと煙を吐きながら新山くんが言う。
付き合って数年が経った今でも、この習慣は変わらなかった。窓が開く音がしたら、煙草片手にベランダ集合、みたいな。とはいえ、随分と久しぶりだった。新山くんがすっかり売れっ子になったからだ。
「明日も早いの？」
「明日から暫く東京やねん。で帰ってきたらトークライブもあるし単独も、あと新ネタライブ……あかん時間が足りん」
……はぁ。とため息を吐いたあと、それから、と新山くんが続ける。
「Aも全然足りてない」
そう言われて、嬉しくない人なんているだろうか。
「明日、…早いんでしょ、」
「…あかん？したいねんけど。言ったやんAが足りてない、って」
あ、これ相当限界きてるっぽい。あまりにも直球すぎる要求だ。もう、しょうがないな。…いや、しょうがないじゃない、か。足りてないのは、私も同じだ。
「…そっち、行っていい？新山くんの部屋がいい、」
「ちょ待って、それは可愛すぎるって…」
可愛いことを言ったつもりは毛頭無かったのだけど、…新山くんが嬉しそうだからいっか。煙草もそこそこに戸締りをして、新山くんちのインターフォンを押すとすぐにドアが開いて抱き締められた。…そういえば前に言われたなぁ、確認して開けなきゃ駄目だ、って。
誰に言われたんだっけ、…あぁそうだ、となりの新山くんだ。
(今はただのお隣さんじゃない、ずっと隣にいて欲しいひと)
end.
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作者名：あず | 作成日時：2024年2月12日 17時
