12.落ちるのを見た ページ12
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あぁどうかこれが夢ならば、あと少し、もう少しだけ。そう願いながら肌を重ねた翌日、目を覚ますと布団の中に一人きりだった。夢だったのかな…そう思いながらのろのろと体を起こすと、レースカーテン越しに見えた新山くんにどきりと心臓が跳ねる。…夢じゃ、なかったんだ。
「……おはよ、」
「おはよ。もう昼過ぎやけどな」
昨日散々触れ合ったのに、私は新山くんの背中に抱き着いた。ふわりと香る煙草の匂い。私も吸いたいな。でも部屋に置いてきちゃった。
「…昨日のこと、なんだけど」
「ん？」
ゆっくりと体を離して、新山くんと同じように手すりに凭れながら空を仰いだ。今日も二月だというのにぜーんぜん寒くない。唐突に話を切り出すと、ふ、と煙を吐いた新山くんが視線を寄越す。
「なんかその、お酒の勢いであんな事言っちゃったけど、」
「え、まさか冗談でしたーとかそんなオチ？」
冗談なわけない。新山くんのことが好きなのは本当だ。でも、お酒の力も何もない状態で嘘じゃないよ本当だよ、と言うのも恥ずかしい。また改めて告白するようなものだ。
「なぁ、ほんまに冗談なん？」
「…………」
「A、」
……隣から痛いくらいに視線を感じる。チラ、と横目で新山くんを見ると唇を突き出して拗ねたような、そんな顔をしていた。…そんな顔もするんだ、とこんな時にまできゅんとするなんて本当に本当にどうかしてる。
「冗談、…じゃないよ。新山くんが好き」
新山くんの方見てたら言えなくなりそうだから、ふい、と視線を逸らしながら言葉を紡ぐ。…どんな顔してるかな。逸らしたから見えないや、
「A、こっちみて」
「……やだ」
「ちゃんと顔見て言いたいねん」
それでも頑なに見ようとしない私に痺れを切らした新山くんに、抵抗虚しく抱き寄せられた。新山くんの指が前髪を避ける。露わになった額に柔らかな感触……え、と思わず顔を上げてしまった。あぁ駄目だ、捕まった。この瞳からは逃げられない、
「…俺も好き」
いつから、とか、私でいいの、とか、聞きたいことが次々浮かぶのに、新山くんの唇に塞がれてしまった。あ、…苦い。そういえばさっきまで吸ってた煙草、どこに行ったんだろう。
触れ合わせるだけの、子供みたいなキスを繰り返す。触れて離れて、角度を変えてもう一度。ふと視線を落とすと、足元に転がった吸い殻が細い煙をゆらゆらとあげていた。
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作者名：あず | 作成日時：2024年2月12日 17時
