01.この関係に名前をつけるなら ページ1
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加熱式タバコのデバイスを片手にカラ、と窓を開ける。2月のくせに、全然寒くない。ボタンを長押ししながらサンダルをつっかけてベランダに出ると、ちょうど隣の部屋からもカラカラ、と窓が開く音がした。
「おかえりー」
「ただいま。あれ、煙草変えた？」
「よく気付いたね」
「いつもと全然ちゃうもん」
お隣の新山くんの姿が見えると、煙草から口を離して声を掛けた。仕事帰りに新発売の銘柄を買ってみたものの、ちょっと香りがキツい。どう？と尋ねられたから、イマイチかな、と返す。
「あーーーつっかれたぁ……」
「仕事終わりの煙草って格別に美味しいよね」
「分かる、めっちゃ美味い」
ベランダで煙草を片手に話すようになったのは、一ヶ月くらい前だったと思う。新山くんは芸人さんで所謂芸能人というやつだが、全く気取ることも無く話しやすい人。私が芸能人に疎い、というのもあるかもしれないけど。
「A」
「んー？」
呼ばれるまま、新山くんと私を隔てる壁(調べたら隔て板、あるいは
「……やっぱ無理」
「ん？」
「紙。吸っててしんどくない？」
「全然」
新山くんと、時々こうやってキスをすることも珍しくなかった。ちなみに私たちは恋人でも何でもない。ベランダで煙草を吸う喫煙仲間で、ただのお隣さん。それだけ。
「新山くんってさ、キス好きだよね」
「まぁ嫌いではないけどな。無性にしたくなる時ない？」
「ちょっと分かるかも」
「Aは俺にされるん嫌？」
嫌だったら、こうやって何回もキスに応じる訳が無い。それに、自分からキスをすることだってない。珍しく私からキスを仕掛けると、新山くんは少し驚いた顔をしていた。
「新山くんこそ、私にキスされるの嫌じゃない？」
「…むしろ好き」
もっかいして。甘さを孕んだ囁きに導かれ、彼が望むまま唇を寄せる。この関係に名前をつけるなら、一体何だろう。
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作者名：あず | 作成日時：2024年2月12日 17時
