8.待たされた分の想いも君に ページ8
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よりによって、今一番会いたくない人に見られてしまった。泣いてる所なんて、見せたくなかった。石井さんに心配を掛けるようなことしたくなかったのに。
「逃げんな」
背後から抱き締められたせいで、石井さんの声が吐息と一緒に耳朶を撫でる。言葉はきついのに、切なさを帯びたようなそんな声。ツン、と鼻の奥が痛い。また涙が込み上げてくる。
「俺言ったよな、一番最初に。困ったことがあったらすぐ言えって」
初出勤の日。石井さんと初めて言葉を交わした日。あの時、自分の席はあそこだから困ったことがあったらすぐ言え、って言ってくれた。…覚えてる。私が返事したら、もう少し声のボリューム落とそうか、って今よりちょっと優しめに注意してくれたことも。
涙を零さないように、ぐっと唇に力を入れた。けど、情けない嗚咽混じりの声が唇の隙間から漏れ出てしまう。
「さ、…っ最近、ぃしいさんと話せなくて、」
「…うん」
相槌を打つ声まで優しくて、とうとう涙が溢れ出した。お腹の辺りに回された石井さんの手がぽんぽん、と動く。それはまるで、ゆっくりでいいよと言われてるみたいだった。
「聞きたぃ、こと、…っ挨拶、とか、っ全然出来なくて、」
「うん、」
「〜〜…っ石井さん、が、遠くに感じて、」
「…うん、」
「なんか、…っすごく、ッ寂しくて」
文脈も何も無い、思いついたまま言葉を並べるだけ。寂しかった、…寂しかったんだ、私。いつも隣にいてくれた石井さんがいなくなって、他の女の子と一緒にいる所を多々見る羽目になって。それがすごく嫌で、そんな風に思う自分も嫌で。
「わ、たし、石井さんが好き、です…っ」
「A、」
「まだ、…っ私のこと好き、ですか？」
感情任せに自覚したばかりの気持ちを吐露した。石井さんのことが好きだから、他の女の子といる所を見てモヤモヤした。嫉妬した。話せなくて、隣に立てなくて寂しいと思った。新山くんに言われた通りだ。私、いつの間にか石井さんに恋してた。
ふ、と背中のぬくもりが離れた。ネガティブに捉えてしまうのは仕方の無いことで、心がひやりと冷えていくのが分かる。けどそれもほんの数秒で、今度は正面から石井さんに抱き締められた。
「──…言うの遅いねん。待ちくたびれたわ」
「…っ、」
「待たされた分こっちはもっと好きになってんねん」
石井さんの両手が、涙で濡れた頬を包み込む。見られたくないのに、目が逸らせない。違う、逸らしたくない。
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あず(プロフ) - あんこさん» あんこさん！コメントありがとうございます😌💖どちらも楽しんでいただけて良かったです！番外編ものんびりアップしていくのでお時間のある時に読んでやってください〜！✨️ (2月14日 23時) (
レス) id: de1b10e721 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - 完結おめでとうございます✨新山さん編、石井さん編どちらも見ました！すごい良かったです☺️特にラストと番外編の話ときめきました！🩷番外編楽しみにしてます✨ (2月14日 7時) (レス) @page12 id: 262806c1af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あず | 作成日時：2024年2月6日 22時
