ずっと呼んでみたかった＿niym ページ10
×後輩
ドアを開けてひょこ、と顔を覗かせるとパソコンの画面と睨めっこしている新山さんがいた。壁掛けの時計をちらりと見ると、劇場での出番を終えてからもう随分経っている。新山さんを見つけたはいいけど、…どうしようかな。私に気付かないくらい真剣だし、邪魔しちゃ悪いかな。そう思って声を掛けるのを躊躇っていると、不意に顔を上げた新山さんと目が合ってしまった。
「うわ、びびったー。いつからおったん？声掛けてや」
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなくて…すっごい真剣だったから、声掛けるのも悪いかなって思って見てました」
後ろ手に扉を閉めながら中に入り、新山さんが睨めっこしていたパソコンを覗き込む。…あ、これは。ずらりと表示されているそれが、SNSで募集してた見せ算だとすぐに分かった。
「凄い数来てますね」
「やろ？めっちゃおもろくて読み込んでたわ」
眼鏡を外して目元を押えながら、楽しそうに新山さんが言う。声音と口元で楽しそうって分かっちゃった。ふふ、と思わず笑みが零れる。
「A、」
不意に名前を呼ばれて、どきりと心臓が跳ねた。疲れが混じった声が妙に色っぽい。画面から目を離して新山さんを見ると、ぎゅっと抱きつかれてしまった。
「に、新山さん、」
「……ちょっと休憩」
座っている新山さんが、立っている私に抱きついているので何だか変な感じだ。お腹の辺りに新山さんの顔があって、どうしようお腹鳴ったら嫌だな、とかそんな事を考えてしまう。
「…頭、撫でてもいいですか」
「ん」
短い返事を聞いてすぐ、そっと新山さんの頭に手を伸ばした。遅い時間なのにさらさらしてて柔らかい。きっともう少しここで仕事をして帰るんだろう。忙しい彼を邪魔しちゃいけないな、と思いながら何か出来ることはないだろうか、と思案する。……あ、そうだ。これが嬉しいかどうか分からないけど、驚かせることは出来る、かも。
「…頑張ってね、……士彦、くん」
ぴくりと、新山さんの身体が揺れた。いつも"新山さん"なのに、いきなり下の名前にくん付けは階段を飛ばしすぎたかもしれない。
「…あかんわ、今の」
そう言いながら顔を上げた新山さん、改め士彦くんの顔を見て左胸がきゅっとした。あぁ、好きだ。たまらず言葉にすると、俺も、と聞こえた気がした。
end.
インスタの画像を見てパッと思い浮かんだお話。とても好きな横顔でした…
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作者名：あず | 作成日時：2024年3月16日 10時
