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「……もう、なんなのあれ……！！」
トイレを済ませた後、鏡で前髪を整えながらぼそ、と吐き出す。新山さん、何であんな事するんだろう。私の反応見て楽しんでるのかな。それにしても今日の新山さんも格好良いな、と結局そこに戻りながらリップを塗り直す。どうせまた飲んだり食べたりするから意味無いけど。
「あ、」
個室に戻ろうとすると、丁度入れ替わりで新山さんが出てきた所だった。私に気付いた新山さんが、スタスタと歩み寄ってくる。さっきまでの事を思い出して思わず身構えると、すぐ側で足音がぴたりと止んだ。
「A」
「は、はい、」
「この後、二人で抜け出さへん？」
新山さんの声が、鼓膜を甘く震わせた。途端に心音が速くなるのが分かる。呆気に取られていると、去り際にふと笑った新山さんが通り過ぎていった。この後って、二次会には行かずに二人で…ってこと？
「っに、新山さん！」
呼び止めて、何を言おうとしたのか分からない。気付いた時には声に出ていて、少し先にいる新山さんが足を止めた。振り返った新山さんは、眼鏡のブリッジを押し上げながら私が何か言うのを待っている。どうしよう、もう言ってしまおうか。職場恋愛は面倒だなんだって聞くけれど、そんなのやってみなきゃ、
「…バレてんで、全部」
各個室から漏れてくるざわつきが、一瞬にして消えてしまった。バレてる、って何。何が、…もしかして私の気持ちに気付いてるとでも言うのだろうか。誰にも言ってないのに。誰も知らない筈なのに。
「あ、あの、…っ私、」
「続きは後で、…な？」
全然、気付かなかった。いつの間にか新山さんがすぐ側にいて、彼の人差し指が私の唇に触れていることに。え、なに、どういうこと。何が起きているの。呆気に取られていると、新山さんは再び背を向けて歩き出していた。
「〜〜…っ何なの、ほんとに……！」
さっきからずっと、ずっとずっと新山さんにペースを乱されっぱなしだ。でも何故か、それが嬉しいと思ってしまう。…期待、してもいいんだよね。いいよね、新山さん。
end.
お題箱からいただいた、飲み会で正面に座ったniymさんに足を絡まれるお話。好きなことがしっかりバレてます。
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作者名：あず | 作成日時：2024年3月16日 10時
