押して駄目ならなんとやら＿niym ページ45
リクエスト作品 ／ ×後輩芸人
──背中には、壁。目の前には、新山さん。この場から逃げ出したい私と、そうさせまいと壁に手をつく新山さん。じっと見つめる視線が絡みつく。…気まずい。ものすごく、気まずい。
「今日こそちゃんと答え聞かしてや」
「…だ、だから前にも言った通り」
「俺とは付き合えへん、って？」
新山さんの言葉にこくこくと頷いて見せると、はぁ、と深いため息が聞こえた。そう、私は新山さんからずっとこうしてアプローチされている。でも私は、それをずっと断り続けていた。
もちろん、新山さんのことは好きだし尊敬している。でも芸人同士付き合うと何かと面倒だとか聞くし、先輩後輩としてよくしてもらっているのに男女の関係でもつれてしまいたくないのだ。
「俺のこと嫌いやないやろ？」
「そりゃあ…まぁ、」
「どっちかと言うと好きの部類ちゃう」
それはその通りなので、素直にこくん、と頷く。好きか嫌いかの二択しかないなら、もちろん前者だ。新山さんがふ、と口角を上げて笑うのが見えて心臓がどきりと跳ねた。別にこれは、そういう意味でドキドキしている訳じゃない。こんな至近距離で、格好良いと皆から言われる新山さんが微笑んだら、誰だってこうなるよ絶対。
「A、」
いつもと違う、ちょっとだけ優しさを孕んだ声音につられて顔を上げるとすぐそこに新山さんの顔があった。思わずぎゅっと両目を閉じ、同じようにきゅっと唇に力を入れる。けど、何も起こらない。てっきりキスされると思っていた私は、勝手に勘違いしたことが恥ずかしくなった。顔、熱い。やだな、絶対赤くなってる、
「絶対好きやん、俺のこと」
「ち、ちがいます！」
そう言ってにやにやする新山さんが恨めしい。あぁもう、最悪だ。
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作者名：あず | 作成日時：2024年3月16日 10時
