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「なぁにAさん、疲れてるの？」
「商談の後だからちょっとだけ疲れてるかもです…」
ため息を聞きつけた隣の先輩が声を掛けてくれる。本当の理由は疲れなんかじゃない。寧ろ、正面にいる新山さんを見て疲れなんか吹っ飛んでしまったくらいだ。チラ、と新山さんに目配せすると隣の人と楽しそうに会話していた。あ、今笑った。笑い声すら愛おしい、なんて知られる訳にはいかない。職場恋愛は、何かと厄介だって周りからよく聞くから。
「……あ、すみません、」
料理を取り分けたり、飲み物の追加を募ったり、隣の先輩と話したりしていると不意に足先が何かに触れた。何、って多分正面にいる新山さんの足とぶつかってしまったんだと思う。現に顔を上げたら新山さんと目が合ったから、当たってしまいましたごめんなさい、って謝ったんだけど……
「…っ、」
「………」
……あれ。足を引っ込めた筈なのに、また新山さんの足先が触れた。思わずびくりと肩が跳ねてしまう。そうしている間にも、するすると新山さんのつま先が足の甲に触れてぺたん、と乗せられてしまった。
「に、…新山、さん、」
「どうしたん」
新山さんを見ると、…あ、この人確信犯だ、って分かった。知らん振りしてるけど、意図を持ってやっている。誰も見てないテーブルの下で、意図的に私の足に触れている。じわりじわりと、頬に熱が集まるのを感じながら避けようと試みると不意に隣から声が掛かった。
「あれ、なんかAさん顔赤くない？もしかして暑い？」
「っあ、そ、そうかも、ちょっと暑いかもです」
ちょっと暖房下げようか、と気を利かせてくれる先輩に心の中で謝罪した。…違うんです先輩、私が赤くなってるのは全部目の前の、新山さんのせいです。乗せられた足を落とすようにスッと引くと、にたりと新山さんが笑う。…悔しい、この人絶対私の事からかってる…！
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作者名：あず | 作成日時：2024年3月16日 10時
