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「……でも、」
長い長い沈黙のあと、ぽつ、とAが話し始めた。俺はAの腰の辺りに腕を回したまま、話し声に耳を傾ける。
「もう私たち四年付き合ってるじゃん」
「…うん」
「その、…私としてはね、やっぱり先のことも考えるの」
先のこと。つまりそれは、結婚ということだろう。結婚願望がめちゃくちゃある、とコーナーを盛り上げるために宣言していたけどあれはAの本心だと俺は分かっていた。
「あんまり重たいこと言いたくないんだけど、…そういう先々のことをちゃんと考えてくれるなら言ってもいいかな、って…」
そう言って、Aは俯いてしまった。めんどくさい女だと思われてないか不安になっているのかもしれない。でも俺は全然そんな風に思わなかった。むしろ──…
「楽屋戻ろ、A」
「え…」
ゆっくりと身体を話しながらそう告げると、Aがパッと顔を上げた。その表情は不安で満ちている。誤解しているとすぐに分かった俺は、Aの手を取って返事も待たずに歩き出した。
「俺らの将来のことやけど」
「…っうん、」
「そんなんもう最初から考えてるから、俺」
しばらくして楽屋が見えてくると、足を止めて振り返る。ゆらゆらと揺れるAの瞳をじっと見つめながら、ふと笑って見せるとほんの少しだけAの顔から不安の色が消えた気がした。
「今更A以外なんて考えられへん」
「士彦、」
「…ここから先は帰ってから、…な」
こんなむさ苦しい楽屋の前で、なんてムードもへったくれもあったもんやない。自分でも意地悪い顔して笑ってるんだろうな、という自覚はあった。でもAが嬉しそうに笑ってるから、それだけでもう十分だった。
「──…みんなー、ちょっと聞いてくれるー？」
Aと手を繋いだまま、肩を並べて歩き出す。さぁ、ここにいる仲間たちにまずはたくさん祝福してもらおうじゃないか。
end.
付き合っていることを隠し続けたい夢主とniymさんのお話でした。リクエストありがとうございました!
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作者名：あず | 作成日時：2024年3月16日 10時
