・ ページ31
.
「もうぜんぶ言っていい？」
「…だめ、」
何となく流れでいいよ、と返ってくると思ったのにやっぱり答えはノーだった。俯いたAの顔を覗き込みながら目を合わせようとするのに、合わない。焦れったくなってすくうように口付けると、Aの甘ったるい声が鼓膜を震わせた。
「…なんで？」
「だ、って、…っん…っ」
理由を問うけど、答えは全部キスで閉じ込めた。このままずっとこうしていれば、イエスもないけどノーもない。あまりにも現実離れしたことを考えながら、角度を変えて執拗に責め立てた。舌まで挿れて互いの唾液が混じり合う頃、もう限界だ、とAがその身を捩る。
「っは、……はぁ、もう…」
「…ごめん、止まらんくて」
Aの唇の端に手を伸ばし、指先でそっと拭いながら謝罪の言葉を口にするとAはゆっくりと頭を左右に振った。それから俺をじっと見つめて、どうしてそんなに言いたいの、と問う。
「別にSNSとかでファンの人らに向けてとかやなくてさ、あー…なんて言うか身内に対して牽制というか…」
適切な言葉が見つからない。浮かんできた言葉を繋ぎながらそう言うと、Aは牽制、とだけぽつりと繰り返した。
「…Aって自覚してんのか知らんけどモテんねん」
「いやいやいや、」
「ほら自覚してへん」
先日の飲み会の席で見た、例の後輩芸人とのやり取りを伝えると、Aはそんな事ありましたっけ？と言わんばかりの顔をして見せた。…ほらな、無自覚やんやっぱり。
「…だからそれとなく噂レベルでいいから広めておきたいねん。俺と付き合ってるって知ってたら流石に手出さんやろ」
後は気心知れた奴らに付き合ってることを話してたら、何かの時助けてもらえたりするかもしれない。その何かが何かは分からんけど。例えば俺がいない時に、Aに好意を持ってる奴がちょっかい出してきてもそれとなく助けるとか。
→
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 183人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あず | 作成日時：2024年3月16日 10時
