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「…さっきはごめん」
収録部屋から出たあと、俺の数歩先を歩く背中に声を掛けた。足を止めて振り返ったAはきょと、としている。
「ちょっと終わり方変な感じになったから」
「あー…」
Aに追いつくと、二人揃ってゆっくりと歩み出す。このまま楽屋に戻るでもいいけど、ちょっと今は戻りたくない。何となくまだ、Aと二人でいたい。チラ、と横目でAを見下ろすとばちりと目が合ってしまった。じ、っとAが俺を見つめている。
「…最後の質問さ、台本になかったでしょ」
思い切りバレてた。たっぷりと時間をかけながら視線を逸らし、ごめん、と呟く。数秒後、ため息が聞こえたから俺はAを怒らせてしまった、と思った。現にAは俺を置いてスタスタと歩き出し、楽屋とは違う方向に歩いて行く。反射的にその背中を追い掛けるとやがてAは、機材や小道具が入り雑じる人目に付きにくい場所で足を止めた。
「…A、」
「なんで士彦がそんな顔するの。私別に怒ってないよ」
え、あ、そうなん？思わず顔を上げると、そこには普段の通りのAがいた。むしろ、情けない顔をしていたであろう俺を見て笑っている。思わず触れたい、と思った。でもここ劇場やし、いくら二人きりとはいえ流石に…と躊躇っていると、ロンTの裾をクイ、と引っ張られた。
「…いいよ」
「あかんてそれ、」
反則やって。そう耳元で囁くのと同時に、Aを抱き締めていた。人目に付きにくいとはいえ、見られる可能性が0ではない場所だ。まるでいけないことをしているみたいで、気持ちが昂っているのが分かる。…A、と口にした音が妙に熱っぽいことも自覚していた。
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作者名：あず | 作成日時：2024年3月16日 10時
