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喫煙所に行くと、そこには誰もいなかった。珍しいこともあるものだ。意図せず、二人きりになったな。そう思いながらAを見ると、毛先を触りながら俺を見るAと目が合った。
「……変、ですかね」
「いや、…正直めっちゃ似合ってると思った」
「ほんとですか」
うん、と頷いて肯定するとAは嬉しそうにはにかんだ。うわ、あかんてその顔。かわいい。口が緩んでしまう。それを隠すように煙草を口に咥え、心做しか長く吸い込んだあとふう、と長く吐き出した。
「結構バッサリいったな」
「そろそろ暖かくなるし、印象変えたいなと思って」
「失恋したとかじゃないんや」
「失恋したら髪切るって古いですよ、新山さん」
肩を揺らしながら笑うAを見て、古くて悪かったな、と言い返す。そうか、心機一転的なやつか。随分と大胆なイメチェンだ。絶対今日来るお客さんもびっくりするやろ。
「…新山さんに似合ってる、って言って貰えて嬉しいです」
切りたての髪に自分でもまだ慣れていないのだろう、頻りに毛先を気にしながらさっきより小さな声でAが言う。眼鏡を押し上げながらAを見たら、ゆらゆらと揺れる瞳とバッチリ目が合ってしまった。
「なんで嬉しいん？」
「……察してくださいよ」
…あ、目逸れた。でも、Aがどんな顔してるのか、何を思っているのか容易に想像がつく。何でって、耳朶がじんわり赤くなってるし。あーあ、あかんわほんまに。さっきから俺も顔緩みっぱなし、
「…A、こっち向いて」
──ちゃんと目を見て、かわいいって、好きって言うから。
end.
バッサリ髪を切ったら周りが可愛さに気付いちゃって、なんだかそれが気に入らないniymさんのお話。
ふたりの将来のこと。＿niym→←独り占め出来たらどんなに良いだろう＿niym
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作者名：あず | 作成日時：2024年3月16日 10時
