好きの表情＿niym ページ1
×同期
新山くんを好きになって、気付いたことがいくつかある。「最悪や」ってよく言うこと、鞄の中に色んなコード類が入っててぐちゃぐちゃなこと、そのせいで煙草をしょっちゅう紛失すること、脱いだアウターをそのままテーブルに置きがちなこと、ちゃんと相手の目を見て話すこと、話を聞く時も必ず目を見てくれること、相槌が優しいこと、それから……
「何考えてんの」
「新山くんのこと考えてた」
「そういう事は普通本人に言わんやろ」
恥ず、と続けながら新山くんはテーブルを挟んで向かい側の席に腰を下ろす。目で追っていたら、当然目が合うわけで新山くんは何とも言えない顔をしていた。
「…何回言われても無理やから」
「うん、分かってるよ」
「俺じゃなくて他の奴好きになった方が、」
「新山くんがいいの」
新山くんじゃないと駄目。言葉を遮ってそう言うと、新山くんはぐっと押し黙った。そう、私は向かいの席に座る新山くんにかれこれ二年ほど片想いをしている。好きだと自覚して直ぐに告白したけど振られ、それから少しして再度告白しても振られ、既に二回正式に振られている訳だが、今みたいなやり取りを含めるともう数え切れないほど新山くんに振られていた。
「俺が聞くのも変やけど、しんどくならんの」
「しんどい？なんで」
「好きな奴に振られ続けんのって普通しんどいやろ」
「まぁ普通はそうかもね。でも私が好きって言っても、新山くん今みたいに普通に話してくれるし。無視されたり避けられたりしたら流石にしんどいかもしれないけど」
仕事柄、舞台上で無視する事は難しくてもその他の場所で無視する事は容易と言えば容易だ。実際、私も相方と喧嘩していた時に一切会話しないなんてこともあったわけだし。
「多分ね、新山くんが変わってるんだよ。何で普通にしていられるのかわかんないもん、私」
「いやだって人としてAの事は好きやし同期やん」
「普通に接することで私が傷ついてたらどうする？」
「…傷ついてんの」
あ、ちょっとふざけ過ぎた。新山くんにそんな顔して欲しい訳じゃない。思い詰めたような顔は、見たくない。
「嘘、ごめん。傷ついてないから」
「笑えんやつやで今の」
「私が勝手に好きなだけだから安心して」
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作者名：あず | 作成日時：2024年3月16日 10時
