豊かな人 ページ9
一段落して、まだ残していたデザートを食べ始めた。
隣で食べていた及川は既に完食していて、だらりと頬杖を付いている。
「そういえば、さっきはなんで暇か聞いたの？」
「なにそれ、今聞く？ありえない」
今迄の大人びたエロスを放つ彼は一体どこへ行ったのか、不貞腐れたようにつぶやく及川は子供じみていた。
「それはごめん。彼との連絡が私の中での優先順位が高かった」
「ほんっっっと、それハッキリ言うとかムカつく！」
彼の落ち込み具合からして、答えを聞くのは無理な気がする。
せめて、と。謝罪を述べようとしたとき、
「まぁ、そこもすきだけど」
聞き間違いかと疑うほどの、小さな声。
ちらりと及川を見れば、顔を逸らして別の方向を向いている。
髪の隙間から除く耳が、ほんのりと赤い。
「俺、暇だから。Aさんがヒマなら何処か誘おうと思ってたの！」
今は誘うの悩むけど、と彼の沈んだ声が耳を打つ。
「Aさんは、まだ、あいつのこと好きなの？」
刺々しさと、悲しさが入り交じったような暗い声。
「...今はわからない。嫌いとは思えないけど、...好きとも言えない。だから、別れるよ。お互いの為にも」
「..そう」
確認するかのように「そっか」と繰り返す彼は少し機嫌が戻っていた。
「ありがとうね。あなたが居てくれたから、今の結果になった部分が大きいと感じてます。本当にありがとうね」
ふふんと鼻を高くして、
「どーいたしまして」
彼は、にっ、っと無邪気に笑う。
彼は本当に豊かな人間だなと、場違いのことを考えた。
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作者名：島ぞうり | 作成日時：2017年5月7日 21時
