素直 ページ7
院生にもなって、ひとり寂しくカウンター席に座って御飯を食べるのは少し恥ずかしかった。
普段は避ける昼食時の食堂は酷く騒がしく、今はその喧騒が心を穏やかにしてくれた。
ヤナギねぇ、なんで既読無視したの?俺なんかした?
何もないよ、疲れて寝ちゃってただけ。ごめんね
ヤナギほんと?よかった!明日の夜は?A養分が足りてないから出会いたいな
別れたくないという気持ちがない訳では無い。
むしろ別れたいぐらいで。
けれどもその一歩が踏み出せないのは、どうしてだろうか。
カツカレーを食べながら、既読無視する結果となった恋人の連絡を凝視する。
(自然消滅とかしないかな)
馬鹿な願望。
けれども、実行できない訳では無い。
運良く配属された実験室は異なり、研究棟も違う。
連絡さえ断って、恋人から一年逃げれば卒業だ。
きっと、2度と会うことは無くなるだろう。
(断りの連絡だけ入れて、アカウント消そう)
面倒でも、彼との関係を静かに終わらせたかった。
キーを操作してお断りの言葉を返信した。
「あれ？断っちゃうの？」
「っ...！」
洋装は違えど、昨日と何も変わらない顔。
「てーいんさ、なんで！」
「ぶっぶー。店員さんじゃなくて及川さんでしたァ。法文学部2年の19歳！及川徹です。よろしくね、A先輩」
したり顔で、及川が笑う。
「え、法文！？しかも年下！」
「そうそう。Aさん工学部だから、法文棟と遠いしあんま合わないからね」
どろりとした感情を一転するような驚きと。
「それに、Aさん時代に取り残されてそうだもんね。イケメンで有名な及川さんを知らなくても無理はないよ。だから、恥ずかしがることない！」
「はぁ、どうも、」
またその驚きをひっくり返すような呆れ。
ぴこん、
ヤナギもう仕方ない!じゃあ今度の休日は一緒に行こうね!
複雑に絡み合った感情は、どこへやら。
「アンタの恋人結構アンタのこと好きなんだね。どうすんの？知らないふりして付き合い続けるの？」
「...それはないかな」
知らないフリは、フリであって。
きっと本心は隠しきれない。
浮気の件知ってます。別れ話をしたいので、空いてる日を幾つか教えて下さい
盗み見ていた及川が、驚きに瞬きをする。
そして、昨日の帰り際に笑った時のように
「ほんと、素直だよね」
柔らかく微笑む。
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作者名：島ぞうり | 作成日時：2017年5月7日 21時
