どうやら私は死んでいたようです。【及川徹】 (ページ23)

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真面目な人ページ23

「あのね、Aさん」

連絡先の交換も終わって、あとやるべき事は謝罪のみとなった。どう切り出そうかと悩んでいれば、何時になく真剣な顔付きの、及川の姿。

「この前は、ごめん」

深々と下げられた頭に、思わず目を瞬かせた。

思いもよらない出来事だし、謝られる必要のあることは記憶にない。

はてなはてなと疑問符を浮かべて首を傾げていると、顔を上げた及川が、恥ずかしそうに、けれど何処か申し訳なさそうに喋り出す。

「喫茶店にタオル届けてくれた日あったでしょ？俺、あの時実はバイト入ってて、Aさんが来たのもちゃんと見てた。...けど、会うのが怖くてさ。言い訳になっちゃうんだけど、Aさんが俺置いて帰ったとき、すごく怖くなった。俺、なんかして嫌われちゃったのかなって思って、Aさんに嫌いって言われたらどうしようって考えれば考えるほど会いづらくて....、だから、逃げちゃった。会わないように隠れてた。本当にごめんなさい」

再び深く下げられた頭に、「謝らなくていいんだよ」と声をかけた。

気づいていたし、私が悪いことも知っている。

「それは仕方のないことでしょ。会いたくない人とか会いづらい人から逃げたくなるのは当たり前だと思うし、それに、あなたに会いづらいと思わせた原因は私にあるから。私が自分の感情に悩んで、あなたが傷つくという予想を立てられなかった。自分の感情のままに行動しちゃって、あなたに不快感を感じさせた。だからね、謝るべきはあなたじゃなくて私にあるよ」

ごめんなさい、そう口に出そうとした途端、及川は「そうじゃない」と、声を張り上げる。

「...謝るべき人がAさんとか、俺とか。そんな事どうでもいい。Aさんが言ったように、Aさんから逃げようって気持ちにさせたのは、確かにAさん自身だけど。その気持ちに従ったのも、Aさんに会わないって決めたのも俺だよ。行動を決めたのは俺だよ。だから、謝らせてよ」

一体何度目になるのか。

「Aさん、逃げたりしてごめんね」

彼のめいいっぱいの謝罪を受け入れた心は、何故か気恥しかった。

ここまで真摯に謝罪を述べる人がいるのだろうか。

自分の行動に責任をもって、

ほんの小さなことにでも頭をさげられる彼は、

「私の方こそ、あのとき、置いて帰ってごめんなさい」

きっと、真面目な人なんだろう。