連絡先交換 ページ22
ぽつりぽつりと人がいる程度で、食堂はかなり空いていた。
お膳にのせた大盛りのチーズカツカレーと、納豆や、オクラなどの小皿に入ったおかず。そして、デザートの杏仁豆腐。
和洋中もカロリーも気にせず、食べたいものだけを取りまくった結果である。
人が混んでいないわけだから、大テーブルの席を一人で使えるが、いまの気分的にはカウンター席で、誰も座っていないカウンター席のど真ん中にどうどうとすわった。
手を合わせて食べ始める。
どこか気分がそわそわしているのは、ここで及川に声をかけられた記憶があるからだろう。
諦めるといいながら、彼の優しさに期待している。
酷いことをしておいて、どうせ許してくれるだろ。なんて考えるのは酷く相手を嘗めている様なものだけれど、
きっとこれは、期待に近い希望なんだ。
噛むことを意識していないせいか、すでに半分近く減っている。
感情もそうやって簡単に消えてしまえばいいのに。
カツの最後のひとくちを食べようと口に運ぼうとしていると、スプーンを持つ腕を掴まれた。
カツがころりと転がって運良くカレーの上に着地する。
「っ、はぁ、Aさん！」
けれど、そんなことはどうでもいい。
「お、おいかわくっ、なんでっ」
汗を流す及川が、唾を飲んで口を開く。
「なんでは、こっちのセリフなんだけど！？なんでもっと早く会えそうな場所来てくれなかったの！？俺だって、Aさんの家までちゃんと送ったことないから場所なんてわかんないし、連絡先なんて知るわけないでしょ！喫茶店に来ると思ったらあの日以来、来なくなっちゃうし！....第一メアド間違えないでよね！！！」
「ご、ごめんなさい。メアド間違ってた！？」
きっと、彼は怒っている。
だから、連絡をしてくれないんだと思っていたのに。
「こんど、違う連絡先おしえたら俺怒るよ！？Aさんとのメール交換ってはしゃいで送ったのに、エラーメールが帰ってきた時の俺の気持ちわかる！？」
早口にいう彼は、既に怒っているようにみえるけれど、
その怒りは、置いて帰ったことにではなくて。
連絡が取れないということに対しての怒りで。
「あの、」
「なに！？」
それを嬉しいと思うのは失礼なことだろうか。
「よろしければ、連絡先を交換しませんか」
連絡先の交換をお願いするのに
心躍るのは初めてかもしれない。
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作者名：島ぞうり | 作成日時：2017年5月7日 21時
